364 サラ湖 下
ウォーキングから帰ると、館にある樹液──メープルシロップに合うパンケーキで朝食となった。
「いい感じの甘さですね」
メープルシロップの味なんて微かにしか覚えてないけど、サラッとした甘さだわ。これなら砂糖の代わりに使ってもいいかもしれないわね。
「もう少しガツンとあってもいいな」
甘党には聞いてません。蜂蜜でもがぶ飲みしててください。
「蜂蜜は蜂の数や気候、花で変わってきますからね、安定した甘さなら樹液のほうがいいでしょう。是非とも我が国に流して欲しいです」
コルディーでも採れる領地はあるでしょうけど、王国中に流通できるほどはないはず。至るところにあるゴズメ王国から輸入したほうが早いでしょうよ。
「樹液は売れるのか?」
「最初は売れないでしょうけど、認知度が上がれば人気になると思いますよ。蜂蜜より安く仕入れられますからね」
養蜂をしているところは少ない。王都にいたときも高価なものだったし、毎日食べられることもなかった。
蜂蜜の三分の一くらいの値段になるのなら、わたしは売れると思うわ。いや、三分の一ならわたしが買い占める!
「アリラ様。もし、ミューズ男爵領で採っているなら売ってくださるよう男爵にお伝えください。相場以上で買わせていただきますわ」
相場と言ってもそこまで高くないはず。ここにくるのもタダなのだから多少高くなっても損にならないわ。
「わ、わかりました。父に話してみます」
「ありがとうございます。あ、無理なら無理で構いませんよ。他で買いますから」
あの樹は結構生えていた。この気候で生るものなら他にも生っているはず。食べるために採っているのだから他にも採っているってことだからね。
「いえ、恐らく問題ないかと。樹液、エラールは定期的に抜かないと樹が枯れてしまうので、売れるなら是非とも買って欲しいです」
あら、なかなか商売がわかっていること。もらって欲しいと言わないところが気に入ったわ。タダより高いものはないんだからね。
「さすがに無尽蔵に、とは言えませんけど、樽でいうなら百は欲しいです」
「そなたは業者か」
「エラールはカクテルにも使えますし、果実酒にも使えます。来年は梅酒を砂糖ではなくエラールにするのもいいですね。あと、寒い日はホッ卜ウイスキーに入れてちびちび飲むのもいいかもしれませんよ」
ホッ卜ウイスキーに蜂蜜を入れて飲むんだからメープルシロップでも合うはずだわ。ホットミルクに入れるのもいいわね。
「よし。百と言わず二百買え。金なら神殿から出させるぞ」
いや、神殿を私利私欲のために遣わないで……いや、私利私欲のために神殿があるようなものか。コノメノウ様を奉る(?)ためにあるんですからね。
「あ、ミューズ男爵領の負担にならないていどでよろしいですからね」
わたしやコノメノウ様が言うと命令になっちゃうからね。
「ミューズ男爵にはわたしからも話しておく。採れるだけ採れ」
いや、一番命令しちゃダメな方が貴女ですよ!




