360 姫 下
通された部屋は質素だけど、かなり良質なものが使われているのがわかった。
「希望なされた棚はこれでよろしいでしょうか? 気に入らなければすぐに別のものをご用意致します」
「これで構わないわ。それどころか立派な棚ね。作った職人を紹介して欲しいくらいだわ」
新しい館に合わせて新調したいくらいだわ。
「この館はお前にやる。維持費は国で面倒見るから好きに扱っていいぞ」
とはタルル様。あんだって?
「よ、よろしいのですか? かなり立派な館ですよ」
それも外国人に与えるとか問題ではないの?
「国王からは許可を得ている。謂わば、コルディーとの窓口だ」
コルディーとは我が国、コルディアム・ライダルス王国の通称ね。
「……わたしは、伯爵の娘ですよ……」
「今さらだろう。ゴズメ王国と一番繋がりがあるのはお前なんだから」
「いや、他にもいるでしょう。近隣の諸侯とか」
隣接する国とまったく繋がりがないってことはない。必ずどこかと繋がっているものだ。でなければ人や物が流れてくることはない。最低限の付き合いがあるからできることだ。
「いるにはいる。だが、お前は守護聖獣たるコノメノウとの付き合いがあり、中央との繋がりもある。ゴズメ王国としても繋がりを求めたいと思う気持ちや判断は理解できるだろう」
理解はできる。そう動いていたのもわかる。けど、いきなりすぎない? これでは引き込み工作と見られても反論できませんよ?
「……国として限界がきているのですか……?」
「だからお前を選んだんだよ。世界が見えているお前にな」
「別にそこまで視野は広くありませんよ」
新聞もネットもない時代で世界を知るなんてことはできない。けど、一国で完結できる時代ではなくなっていることがわかるだけだ。
「すべてを見通しているならお前は排除されているところだ。いや、わざと見ないようにしているだけか。自分を守るために」
タルル様は人間味があるとは思っていたけど、この方はきっと政治に関わっているのでしょうね。甘いもので釣られそうなのがどうなのかと思うけど……。
「わたしは表に出ることはありませんよ」
そのために醜聞を起こしたんだからね。
「お前は裏でこそこそ動くヤツだろう」
まったくその通りで反論できなかった。
「まあ、今日明日に国交を結ぼうと言うわけではない。その前に小さな交流は必要だ。深く考えずゴズメ王国を楽しんでくれ」
そんな話を聞かされて楽しめるわけないじゃない。って思うけど、まあ、今のわたしにはなんの権限もなければ決定権もない。タルル様にご招待されたって形なんだからそれを通させてもらいましょう。




