359 姫 上
「お、よかった。間に合ったか」
外に出るなり玄関前にいたコノメノウ様がそんなことを口にした。
「なんです、いったい?」
わたしに向けて言ったわけじゃないみたいですけど。
コノメノウ様が見る方向に目を向けると、四頭立ての馬車が館に入ってきた。随分立派な馬車だこと。
「神殿から呼んだ巫女だ」
あ、そう言えば、呼ぶとか言ってたわね。準備ですっかり忘れていたわ。コノメノウ様、適当に頼むとしか言ってなかったからね。
馬車からは白い装束を纏った老巫女とボイン……ではなく、胸部装甲が厚い若い巫女が二人出てきた。
……この世界、質素な食事でも胸部装甲が育つから不思議よね。とっても嬉しいけど……♥
「なんだ、そなたまできたのか」
「姫がお呼びになられたのです。なにを置いても馳せ参じます」
見た目から七十歳かしら? なかなかパワフルなお婆ちゃんだこと。
「まあ、きてしまったのなら構わんさ。こやつがチェレミー・カルディムだ」
いきなりですか。まあ、時間がないので構わないけど。
「初めまして。チェレミー・カルディムと申します」
言葉使いや佇まいからしてコノメノウ様に近い方であり、恐らく貴族籍の方でしょう。神殿の高位巫女は貴族が多いって聞いたことあるしね。
「初めまして、チェレミー様。わたしは、マミゼルと申します。神殿で姫の側仕えをしておりました」
姫か。昔からこの姿でいたってことか。筋金入りね。
「これから出発なので、込み入った話はあとでしましょう。申し訳ありませんが馬車に乗ってください。コノメノウ様はどうします?」
「マミゼルと話もあるから神殿の馬車に乗るよ」
「わかりました。タルル様。よろしくお願い致します」
「そう身構える必要はない。すぐだからな」
全員を馬車に乗せ、座席に座ると、窓の外が一変。驚いている暇なく馬車のドアが開かれた。
「着いたぞ」
一瞬すぎるでしょう!? ミコノトの罠にかかったときより違和感がなかったわ。
「……す、凄いですね。魔力の乱れすら感じませんでした……」
「慣れているからな」
そりゃ、なんの前兆もなく転移してくるわけだ。これを感じられる者はいないでしょうよ。戦争してたら勝てる未来が見えないわ。
馬車の外に出ると、古代ローマにきたかのような衣装を纏った女性たちが並んでいた。
「館のメイド長だ。ハーマイ。よろしく頼むな」
「お任せくださいませ、姫様」
姫様? 守護聖獣様は姫と呼ばれる文化なり決まりなりあるの? それともなにかの隠語なの?
「ラグラナ。よろしくね」
こちらもメイド頭たるラグラナに任せるとしましょう。
「畏まりました」
「まあ、旅の疲れもないだろうが、夜までゆっくりするといい」
「チェレミー様、ご案内致します」
メイド長のハーマイのあとに続いて館に入った。




