353 初めてのシチュー 上
「おもしろいな!」
すっかり打ちっぱなしが気に入った叔父様。帰るまでにネットを作って、城でもできるようにしてあげましょう。
「叔父様。そろそろ止めておかないと叔母様に呆れられますよ」
もう一時間くらい打ちっぱなしをしている。叔母様を放っておくのも可哀想でしょう。
叔母様のところに向かうと、なにやらお玉で鍋の中身をかき混ぜていた。
「料理をするのも楽しいものね」
鍋を覗くと、シチューだった。
「叔母様、シチューが好きでしたね」
わたしがこの世界に生まれ、自身に付与魔法があることを知って、最初に挑んだのがシチュールー作りだ。
伯爵家に生まれ、不自由なく暮らせたけど、食事だけは不満だった。
不味くはないけど、そこまで美味しいものではなかった。全体的に味が薄くて深みがなかったのよね。
最初はがまんしてた。でも、とうとう堪えられなくなってシチュールーを屋敷の料理人見習いだったロージルに作らせたのよ。付与魔法を施した道具を渡してね。
それからシチュールーが完成し、その功績を持って城の料理人となり、今では屋敷の副料理人になっているわ。
「ええ。シチューなら毎日食べられるわ」
「それならシチューパイでも作りましょうか」
パンにつけて食べるのもいいけど、パイを破って食べるのもまた美味しいもの。
「どんなものなの?」
「それはできてからのお楽しみです。ナディア。作り方は覚えているわね?」
「はい。お任せください。実家でも作っているので少しアレンジしてますけど」
アレンジなんて言葉も覚えたのね。
「それは楽しみ。じゃあ、お願いね」
シチューパイはナディアに任せ、わたしはシチューパンを作ることにした。
「わたしも手伝わせて」
横で見ていた叔母様。興味を持ったようでシチューパンを作るのを手伝ってくれた。
お昼は叔母様が作っていたシチューとパンで済ませ、シチューパイやシチューパンは夜に出すことにした。
「料理って、やってみると楽しいものね」
「今度、婦人会で料理会を開いてみるのもいいと思いますよ。できたものは孤児に食べさせたりとかね。そんな理由があるのなら叔母様も堂々と料理をすることができます。帰りに必要な道具を渡します。城の料理人なら使い方を知っているはずです」
付与魔法を施したものはナジェスが倒れたときに渡してある。ロージルの弟子であり、今の料理長たるライナなら使いこなしているでしょうよ。
「それはいいわね。婦人会で話してみるわ」
「ええ。婦人会で決まれば調味料を贈らせてもらいます」
料理のレベルが上がれば城の食事もよくなる。うちの料理人を連れていかなくてもいいんだからがんばってください、だ。




