352 再びカンザニア山 下
意外と難しいものね。
前世で打ちっぱなしの経験はあったのだけれど、記憶があったからって体が動いてくれるとは限らないのね。百メートル走って筋肉痛になったときみたいにショックだわ。
空振りを何回かしてやっとボールに当たった。
「ふー。まあまあかしらね」
五十ヤード──五十メートルは飛んだかしら? 山頂から打ったからいまいちわからないわね。
「これが運動なのか?」
「本来は、広い高原などで行う遊びです。ただ、こうして飛ばすことができないといけませんからね」
グリムワールを取り出し、落ちている石に付与を施し、遠くに投げた。
投げた石は的の幻影を映し出した。
「叔父様。あの的に当ててみてください」
スイングは見せたからなんとなく理解できたでしょう。
「うむ。わかった」
叔父様の身長に合わせたドライバーを渡し、打たせてみた。
さすがと言うべきか、五回くらいでコツをつかんだようで、ナイスショットを見せていた。
「おもしろいな」
わたしはゴルフの魅力を知ることはなかったけど、叔父様は魅了を知れたようだわ。
「あの的まで五十メートルってところですね」
「メートル?」
「この球技で使われる長さの単位ですね。一メートルはこのくらいです」
この世界にも単位はあるけど、どうも元の世界の単位がこびりついて違和感しかないのよね。ゴルフを広めるついでにメートル法やセンチを広めてしまいましょう。
「メートルか。クローの倍くらいか」
クローとはこの国の長さの単位だ。三十センチくらいで一クローだからこんがらがっちゃうのよね。
「慣れれば使いやすいですよ。叔父様をメートルで言うなら一メートルと八十センチですかね。一・八メートルでも構いませんよ」
正格かわからないけど、記憶から創り出したからそう間違ってはいないと思うわ。
「帝国はかなり進んでいるのだな」
「そうですね。恐らく、王国より百年か二百年は進んでいると思いますよ」
あちらに生まれた転生者がはっちゃけていたら三百年くらい進んでいても不思議ではないわ。
「二百年? あまりピンとこんな」
「ブランデーやウイスキーは帝国で作られたものです。それだけで王国との技術差がわかると言うものです」
「…………」
「ただまあ、帝国も帝国で問題を抱えていますし、とある勢力と懇意を結べました。そう悪い関係になることはありませんのでご安心ください」
「……今の言葉になに一つ安心できる言葉はなかったよな……」
はて? 安心させるために言ったのだけれど。
「まあ、帝国のことはこちらで片付けておくので叔父様は領地のことだけ考えていてください」
わたしもゴルフをするかも知れないので、今のうちに前世の感覚を思い出しておくとしましょうかね。




