340 マシュマロ 下
とりあえず、竜のことは置いといて、こんがり焼かれたお肉を堪能する。
塩に飽きたら醤油のを食べ、さらに飽きたら柑橘系の果汁をかけて食べる。普段の倍は食べてしまい、動けなくなってしまった。
「チェレミー様、大丈夫ですか?」
ミライアの心配に答えられないので小さく頷く。しゃべったらリバースしちゃいそうだわ。
一時間以上、動くことができず、なんとかお腹が落ち着いたらコーヒーを飲んでやっと動けるようになったわ。ふー。
「何事も腹八分目が大事ね」
わかっていても止められないのが人間。でも、学ぶのも人間。次からは腹八分目を心がけましょう。
「時間も時間だし、お風呂を作りましょうか」
「待て。まだマシュマロがまだだ」
立ち上がろうとしたらタルル様が目の前にきて待ったをかけた。あー。お腹一杯で忘れていたわ。
「まだ食べるんですか?」
「わたしはマシュマロを食べるまで我慢していた」
その甘いものに対する執着はどこからくるのかしらね?
「守護聖獣様は質素なものしか食べてないんですか?」
コノメノウ様もだけど、王都にいたときなにを食べていたのかしら? 国の中枢にいるんだからここより美味しいものは集まるでしょうに。
「お前のところが異常なだけだ。ゴズメ国王でもこんな美味いものは食っていないぞ」
「そうだな。酒は不味いし薄い。そなたが出す酒は芸術品と言っていい。この味を知ったら王都になど戻りたくないわ」
いや、ここにいる目的変わってんじゃないの? 貴女方、大丈夫か?
「食べることに無気力なのは困りますね。人生の大半を無駄にしています」
まあ、そのせいでいろんな厄介事を引き寄せることになっちゃっているけどね。
「そなたは自分が異常であることを隠そうともせんな。いや、肝心なことは欠片さえ見せてないか。見せるときは相手を惑わすときだけだ」
「それは、お二方のほうでしょう。肝心なことを見せないのは」
察することはできても真実は絶対に見せない。コノメノヒメより断然怖いお二方だわ。
「人間の世界では建前が大切だからな」
「そうだな。真実を言えばよいと言うものじゃない」
そう。誰よりも人間を知っているからこのお二方は怖いのよね。
「じゃあ、甘いものやお酒は好きではなかったのですね。申し訳ありません。次からは甘くないものと安いお酒を用意しますわ」
「甘いものは好きだ!」
「酒は美味いものを出せ!」
素直か! いや、もっと言葉を飾れよ! どちらも神代の存在として民から思われてんだからよ!
「マシュマロ!」
「酒!」
守護聖獣の威厳まるでなし。
「ハイハイ。すぐに用意しますよ」
わたし、なにしにきたんだと思いながらお二方の要望(欲望)に応えた。




