315 帰る準備 上
何気ない日々を城で送り、六日目に準備が調った。
その報告を領主代理であるマルセ様に伝えにいき、天気がよければ明日にでも発つことを話した。
「随分と急なのだな?」
「そうゆっくりもしていれませんので。いろいろ受け入れる準備をしませんといけませんしね」
メイベルがくるのは来年でしょうけど、その受け入れ態勢は今からやっておかないと。伯爵令嬢を迎え入れるんですからね。
「そのことなのだが、マルビオ家の者を二十人くらい同行させたい。どうだろうか?」
あら、もう用意できたの? どんだけ急いだのかしらね?
「構いませんよ。ただ、まだ受け入れ態勢ができていないので、あまり待遇をよくすることはできません。それでもよろしいですか?」
「待遇はチェレミー嬢に一任する。チェレミー嬢の配下として扱ってくれて構わない。もちろん、それらにかかる費用はマルビオ家が出すし、必要なら人を送る。少なくとも一月後には職人を送ることができる」
本当に急いだのね。よくこの数日で決めたものよね。職人を集めるだけでも半年はかかるでしょうし、資金も相当なものになるっていうのにね。
「なにか急ぐ理由でもできましたか?」
「チェレミー嬢の思惑がこちらの思惑より早いだけだ。できることなら一年かけてゆっくり用意したいところだ」
まあ、わたしもゆっくりやりたかったけど、それぞれの思惑が先行している。それに対応するにはさらに早めに用意しないといけないのよ。
「それは仕方がありません。上の方はせっかちですからね。早め早めに動かないと身動きがとれなくなってきます。不完全でも準備しておくべきです」
「ハァー。忙しい日々がやってきそうだな」
「忙しい日々が過ぎたらゆっくりでき……ませんね。なにかと仕事は出てきますから」
領地経営なんて問題しかない。それは、指揮しているマルセ様がよくわかっているでしょうよ。
「まったくだ。早くリゼッスに継いでゆっくりしたいものだよ」
マルセ様はまだ三十代。リゼッス様(ルゼット様の息子で次男です)が継ぐのはまだまだ先でしょうよ。
「出立できる準備は整っているのですか?」
「ああ、用意はできている。ただ、旅慣れぬ者ばかりなので考慮してもらえると助かる」
「畏まりました。体調を崩さないようゆっくり帰ることにします」
やることは多いけど、急を要するものではない。帰りもコノメノウ様から魔力をいただくのだから三日四日長くなったところで問題はないわ。
「感謝する」
「では、わたしも最終確認して参りますわ」
一礼して部屋をあとにした。




