302 いってらー
帰ろうとするメイベルの首根っこをつかんだ。
「な、なに?」
脅えるメイベルがちょっと可愛い。じゃなくて、なんで脅えるのよ?
「貴女は残って騎士団の方々に声をかけて回りなさい。マルビオ家の方々が全員帰ったら面目が立たないでしょう」
当主が残るのは部下の集まりに上司がくるようなもの。固っ苦しさをなくすにはメイベルが残るのが一番いいのよ。
「マリーヌ。メイベルの補佐をしてあげて。カエラ、まだ動ける?」
直情的に見えて結構思慮深い。ちゃんと体力と魔力を残しているのよね。この子が一番護衛騎士として優秀だわ。
「もちろんです」
にっこり笑って答えるカエラ。ルーアが抜けたらカエラが次の代表ね。
「ま、回るって、なにをしたらいいのよ!」
「声をかけたりお酒を注いだりでいいのよ。それだけで騎士様たちは喜ぶから」
伯爵令嬢に酒を注がせるなど言語道断と文句を言われそうだけど、マルビオ家の娘だからこそ有効な手となるのだ。
「マルビオ家の名をルティンラル騎士団に刻んできなさい。ここでなにもしなければわたしの名前だけが刻まれてしまうわ。それでは、マルビオ家の名前が霞んでしまうのよ」
「メイベル。いきなさい。マリーヌ。カエラ殿。娘を頼むぞ」
「畏まりました」
「お任せください」
マリーヌとカエラが一礼してメイベルを連れていった。いってらー。
「では、皆様。別邸に。わたしは村の女性陣に声をかけてから戻ります。明日までゆっくりお過ごしください」
まあ、一族で今日の話し合いをするでしょうけど、わたしがいないほうがマルビオ家で意見が統一しやすいでしょうからね。
「失礼します。お嬢様。コノメノウ様の姿が……」
と、ラグラナが割り込んできた。
「まったく、神出鬼没な方なんだから。まあ、コノメノウ様だしね。いないのならいないで構わないわ。一応、馬車を出して帰ったことを示しなさい。わたしはまだ戻れないから」
あの方を縛ろうとすると前準備が必要だ。いなくなったのなら捜すだけ無駄。放置で構わないわ。
「畏まりました」
「ラグラナも戻って。ただ、ナティーは残すから料理はマルビオ家の者にお願いしてもらって」
いろいろ指示を出し、料理を作る村の女性陣のところに向かった。
「お疲れ様。食材は間に合っているかしら?」
マルビオ家が資金を出すってことで料理やお酒は無料で提供している。どれだけ消費するかなんて想像もできない。細かく聞かないと対処できないわ。
「食材はまだまだ余裕ですが、酒が足りないです」
お酒も充分すぎるほど用意したけど、盛り上がった状況では底が抜けてしまったか。
「わかったわ。すぐに用意するわ」
仕方がない。予備を出すとしましょうか。
ハァー。今日もまた夜遅くまで準備をしないといけないわね……。




