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令嬢ではあるけれど、悪役でもなくヒロインでもない、モブなTSお嬢様のスローライフストーリー(建前)  作者: タカハシあん


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29 内緒よ

 スローライフって意外と忙しいものよね。


 やってみてわかる理想と現実。だからと言ってお嬢様業に戻りたいとは思わないわ。毎日のように礼儀作法だ踊りだと忙しく、ちっともおもしろく

ない。そんな苦労してもゴールは誰かの嫁になり子を成すことだもの。


 そんな生き方を否定する気はないけれど、自分に降りかかったら全力で抵抗させてもらう。あんな毎日などゴメンよ。わたしは、忙しくとも充実した日々を送りたいわ。


「マルカ。進み具合はどうかしら?」


 マゴットが連れてきた養蜂家だった男性で、今は来年から始めるために蜂を住まわせる箱やらを用意しているそうよ。


「はい。順調です。箱の一つに女王蜂が住み着きました」


「あら。もう?」


 養蜂のことはまったく知らないけど、こんな秋に女王蜂が飛んでくるものなの?


「地域によりますが、女王争いに負けた女王候補の蜂が巣を出て新しい住み処を探すこともあります。箱に秘伝の蜜を塗ったのでそれに釣られてきたんだと思います」


「へー。そんな蜜があるのね。天敵となる虫はこの辺にいるの?」


「はい、いると思います。同じ環境を好みますから」


「ダニも?」


「……よく知っていますね、お嬢様は……」


「本で読んだていどの知識よ。そのダニもいるの?」


 前の世界でダニにやられて全滅したって聞いたことがあるわ。


「いるとは思いますが、気候やなにかの要因で蜂に取りつくこともあります。なぜかとはよくわかっていないのです」


「そう。なら、いくつかの箱に蜂以外が入らないよう魔法をかけるわ。よく観察をしててちょうだい。なにかあればすぐに解除するから」


 素人考えだけれど、巣に入らないのなら少なくとも蜜は守られるわよね? その辺の判断はマルカに任せるとしましょう。


「失敗しても構わないわ。よい方法を見つけてちょうだい。お金の心配はいらないから。人手が欲しいときはマクライに言いなさい。わたしからも言っておくから」


 蜂蜜は高額だけど、他から手に入れられるもの。よいものが作られるなら二、三年は余裕で待てるわ。資金も用意できる。慌てず確かなものを作ってちょうだいな。


「はい! お嬢様のお口に合うものを作ってみせます!」


「期待しているわ。でも、無理しちゃダメよ。ちゃんと家族を大切にしなさい」


 わたしは他人を酷使させてまでスローライフは求めてない。自分の周りが笑ってないと気持ちよく暮らせないわ。


「はい。畏まりました」


「レオ、ラナ、いくわよ」


 養蜂場(仮)をあとにし、リンゴ畑に向かった。


 大体の領地は麦が主だけど、カルディム家で麦とリンゴも主としている。


 お父様によればわたしから見てお祖父様がリンゴが大好きで、自分の領地でもやりたいと始めたらしいわ。そんなんでいいんかい! と思わなくもないけど、今年も見事に生っているのだから文句も言えないわ。


 うちの特産はリンゴであり、蜂蜜漬けは国王陛下の食卓に上がるほど、らしい。本当かどうかは知らないけど、それを売りにして、少なくない収入となっているのだから止められないそうよ。


 ……まあ、蜂蜜を他所から持ってきて特産もないと思うんだけどね……。


 完全にうちの特産とするためにも養蜂は成功させなくちゃならない。そのための予算もお父様から引っ張り出したしね。


「管理しなくちゃならないのは想定外だったけどね」


 館から二キロくらい離れたところにリンゴ作りを任せた村がある。


 人口は二百人くらいで、主要道から外れているからそこにいくのは今回が初めてなのよね。手紙はちょくちょく出しているけどさ。


 今回、わたしが視察にいくことは伝えてあるけど、収穫が始まったので出迎える必要はないと言ってある──のだが、さすがに自分ところの領主の娘を無下にはできないと、村長とその家族が総出で迎えてくれたわ。


「忙しいのにごめんなさい。邪魔にならないよう見せてもらえばよかったのだけれど」


「いいえ。お嬢様からいただいた虫避けの石のお陰で病気にかからず、今年も豊作です。お嬢様に見ていただけるのならどんなに忙しくても構いませんよ」


 そういうのがブラックにさせるんだから止めて欲しいわ。


「ありがとう。でも、豊作なのはあなたたちの働きがあってこそよ。毎年、ここから送られてくるリンゴは楽しみなんだから」


 まあ、リンゴが特別好きかと言われたらそうでもないと答えちゃうけど、リンゴ飴にしたら好きね。アップルパイもいいわ。


 ここのリンゴは元の世界のリンゴと比べたら二回り小さいけど、砂糖との相性は抜群。リンゴ飴ってこんなに美味しかったっけ!? ってなるのよね。


「今年もよいところを送ります!」


 わたしのリップサービスに喜ぶ村長一家。フフ。わたしって悪い領主の娘ね。


「あ、今年は間引いたものや落ちたものはこの壺に入れてちょうだい」


 護衛の兵士が運んできてくれた壺を二つ、村長に渡した。


「さすがに腐ったものは困るけど、多少の傷なら問題ないわ」


「そんなものをどうするんですか?」


「新たな特産を作ろうと思ってね。その材料を間引いたものや落ちたもので試したいの」


 この世界、酵母はある。誰が発明したかわからないけど、かなり前からあるみたい。だけど、製法は秘密とされ、この国の商会が握っている。


 まあ、販売したらそこの商会と衝突しちゃう未来が見えてたから諦めていたけど、マゴットが販路を見つけてくれた。この国で売れないのなら帝国で売りましょう、だわ。


「完成までは内緒よ」


 人差し指を口につけて、にっこり笑ってみせた。

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