281 指揮命令
「コノメノウ様。ルゼット様が挨拶したいそうです」
「……そういうのは入る前に言うものではないか……?」
「細かいことは気にしないでください。ルゼット様方は移動で疲れているんですからさっさと済ませてあげてください」
さすがにコノメノウ様に挨拶しないのではルゼット様方としても面目が立たないでしょうしね。
「ハァー。わかったよ」
ではと、ルゼット様方に挨拶をさせ、早々に部屋から出た。
「では、夕食までお休みください。あ、マヤカ様たちにはお風呂を用意してあります。入りたい方は遠慮なく言ってくださいね」
男性陣はともかく女性陣は疲れている。汗と疲れを流していただきましょう。
今日の最大のイベントは終わりなので、夕食までは自由時間とする。
「チェレミー嬢。少し、外を見て回っても構わないだろうか?」
と、ルゼット様の一番下の弟で、マルビオ軍(と言っていいのかわからないけど)を指揮しているタルゼン様だ。ここにくるのも馬に跨がってきてたわ。
「構いませんよ。わたしが連れてきた兵士に案内させますね」
タルゼン様もここにきたこともあるでしょうけど、熟知するほどきているわけではない。案内役をつけたほうがいいでしょう。
「それは助かる」
ルーアにお願いする。
「チェレミー様。少しよろしいでしょうか?」
年配の侍女が声をかけてきた。
「確か、タリアラ、だったかしら?」
マヤカ様の侍女だったはず。
「タリレアです」
「あ、ごめんなさい。タリレアだったわね。それで、なにかしら?」
「同行する侍女とメイドが制限されたもので、奥様方の世話が行き届かないかと。別邸のメイドをお貸しいただけますか?」
急だったからその辺の調整はできてなかったみたいね。
「マリーヌ。何人回せるかしら?」
「四人です」
それは城から連れてきたメイドの数でしょう。
「わたしとメイベルはランにお願いするから、コズエとコノハを使ってちょうだい。足りないときは村の娘を集めなさい。メイドの助手をさせるわ」
三百人くらいの村だけど、教育された娘は何人かいるはず。貴族の世話をした経験があれば良縁に繋がるはず。親も名誉に思うでしょう。出し惜しみはしないはずだわ。村の方々とは信頼を築いてきたしね。
「コズエ。予備のメイド服を出しておいて」
こんなこともあろうかと予備のメイド服を持ってきたのよ。
「タリレア。連れてきたのは何人?」
「侍女二人。メイド四人です」
「では、マヤカ様方が休んでいる間は別邸のメイドにさせて、マリーヌと打ち合わせをしなさい。必要なものは用意してあるか」
「メイベルもマヤカ様と一緒にいなさい。ロンゼ様は連れてきた兵士に声をかけてあげてください。必要なら麦酒を配っても構いませんから」
兵士たちが飲むような麦酒はすぐに作れる。飲み干しても構わないわ。
「わたしは、ルゼット様を相手するわ。なにかあればすぐわたしに報告しなさい」
本当はメイベルが仕切るはずなんでしょうけど、決断して命令させるなんてメイベルには無理だ。なら、身分的に上なわたしが指揮命令するほうがタリレアも文句は言えないでしょうよ。




