251 おもてなし
「そう言えば、コノメノウ様は現れないわね」
メイベルが不思議そうに辺りを見回した。
「あ、コノメノウ様、フクノが苦手なのよ。だから現れないんでしょうね」
お酒を飲むクセに苦い野菜が苦手ときている。フクノのような苦い野菜があると外して食べていたわ。
「守護聖獣様にも苦手なものってあったのね」
「まあ、守護聖獣と言ってもなんでも食べるってわけじゃないからね。好き嫌いがあるのは仕方がないわ。そもそも雑食なのが変なのよ。人の姿をしているとは言え、元は獣なの。人が食べるようなものを口にするのが間違っているのよ」
ほんと、一体どんな体をしているのかしらね? 謎だわ。
「もしかして、わざと?」
「もちろん。材料が少ないからね、食べ尽くされたら困るわ」
食材も有限であり、村の方々に振る舞うのが目的なんだから食い尽くされたら困るわ。ビールだって予定より飲まれているんだから。
「……貴女って、コノメノウ様にも容赦ないわよね……」
「敬意を持って接しているわよ」
この国の守護聖獣様。王宮から大金をいただいているんだから大切におもてなししておりますわ。
ピザ作りは村の女性陣に任せ、わたしは平らにした石に熱の付与を施した。
「今度はなにをする気?」
「コノメノウ様用の食べ物を作るのよ」
ピザだけじゃ飽きるしね、カルディムの特産にしようと思うものを振る舞うと致しましょうか。
小麦粉を溶かしたものをお玉で掬い、石に垂らした。
「ロキシル?」
この世界でのクレープみたいなもので、肉をくるめて食べる料理よ。
「よく知っているわね。貴族が食べるものじゃないのに」
「学園で食べたわ」
「へー。学園って民が食べるようなものを出すのね」
そんなに堅苦しい場所じゃないのかしら?
「学園の食事は結構質素よ。パンなんてボソボソしていたしね」
うん。いかなくて正解だったわ。わたし、ボソボソしたパンって嫌いだし。
生地が焼けたらそこに蜂蜜漬けのリンゴとクリームをつけて丸める。
これも質素なクレープだけど、この世界ではかなり高級なものでしょう。あ、アイスでもよかったわね。
「食べてみる?」
「え、ええ。いただくわ」
味見は? なんて言わないでね。甘いものはすぐ食べたいのが女の子なのよ。
メイベルもクレープの美味しさを直感でわかったのでしょう。マリーヌになにか言われる前にクレープをつかみ、パクりと口にした。
「……お、美味しい……」
貴族でも甘いものはなかなか食べられないしね。惚けてしまうのも無理ないわ。
ハッと意識を取り戻し、パクパクとクレープを食べてしまった。
「……食べちゃった……」
「甘いものは太っちゃうからそれでお仕舞いね。もっと食べたいなら草刈りをがんばりましょうね」
太ったメイベルも可愛いけど、さすがに太らせたらルゼット様に申し訳ない。一日一つ。もっと食べたいなら体を動かしなさい、だ。




