242 好感度
メイベルたちの姿が見えなくなったら草刈りを始めた。
「陽射しが強くなってきたわね」
さすが夏の陽射しと言ったところね。農作業帽子(元の世界で農家の女性が使っていたものよ)でも突き抜けてくるわ。
日焼けしないようクリーム(ゴズメ王国産)は塗っているけど、こうも暑いと汗で流れちゃうわね。
付与魔法で陽射しを遮断したり涼しくはできる。けど、村の方々に汗を流しているところを見せるのは大丈夫なのでやっていないのよね。ちなみにいつもは素顔を晒してますよ。火傷の理由が広まっているかは確認してません。
「少し早いけど、休憩にしましょうか」
村の方々は男も女も麦わら帽子を被り、汚い布で汗を拭いている。
……あまり豊かな村ではないみたいね……。
封建制度の世界で農民が豊かになるなんてことはない。だからって元の世界のように暗黒期ってわけでもない。戦争もないからほどよく貧乏でほどよく無知なのよね。
ただまあ、マルビオ伯爵領は他より豊かだから痩せこけている者はない。食うに困らない生活を送っているのは間違いないでしょう。
休憩時は水と塩だけなのに、村の方々が文句を言う者はいない。そもそも貴族が農民を集めることは希だ。大災害が出たときならまだしも、大規模事業とかない。やるとしても人の多い町で集めるでしょうよ。
こうして集まってくれるのは農業以外に稼げる仕事がないってことでしょう。それがほどよく貧乏でほどよく無知でいられる理由でしょうね。
「さあ、再開しましょうか」
農民なら草刈りなんていつもやっていること。十五分の休憩でも文句は言われない。まあ、女たちはおしゃべりしながらやっているし、男たちは黙々とやる。基本、農民は働き者なのよね。
一時間ほど続けてまた休憩。休憩が終われば昼まで続ける。
「はい。お昼にしましょうか」
休憩とは違い、誰もが笑顔だ。肉が入った具だくさんのシチュー。焼いたパンが食べ放題なのだから自然と笑顔になるのは当然でしょう。
わたしも村の方々と同じものを食べる。
この世界に同じ釜の飯、なんて言葉はないけど、自分たちと同じものを食べる貴族のご令嬢ってのはおかしなものであり、好感が持てる存在でもあった。それは村の方々の笑顔で察せられるわ。
好感度が上がればこちらのもの。午後は村の男たちに運べるほどの石を集めてきてもらった。
「チェレミー様。こんなものでよろしいでしょうか?」
わけもわからないのにがんばってくれた村の男たち。好感度の大切さがよくわかるってものだわ。
「ええ。ありがとう。これで窯が作れるわ」
「窯、ですか? パンでも焼くので?」
「ちょっと違うものよ。草刈りが終わったら皆さんに振る舞うから楽しみにしていてちょうだい」
夏と言えばビアガーデン。ピザで夏を楽しむとしましょうか。ふふ。




