218 到着
やはりおしゃべりしながらの移動は楽しいものね。数時間があっと言う間だったわ。
「素敵な別邸ね」
二千メートル級の山脈の麓にある別邸で、建物は古いけど、造りはしっかりしていて維持もできている。こういう家もいいものね。
「いらっしゃいませ、お嬢様。チェレミー様」
玄関前にいる中年の男女に迎えられた。
「マルカ、ルリラ。しばらくお世話になるわね」
二人はこの別邸を管理してくれている夫婦で、他に下男下女がいるそうよ。
「お世話になりますね。ラグラナ。よろしくね」
わたしが借りたとは言え、持ち主はマルビオ家。その管理を任せられている二人のルールに従うのは当然。まあ、あちらも貴族に逆らうことはできないのだから協調し合っていきましょう、だ。
「メイベルは、荷物はあるの?」
「説明を受けたのが出発前よ。わかるわけないじゃない」
そりゃごもっとも。
「お嬢様の荷物は明日に届きます」
と、メイベルに長く仕えているメイドがスッと現れて答えた。
「……レクサーヌ、きていたのね……」
そうそう。そんな名前だったわね。もう四十は過ぎているでしょうに、おっぱいの張りは相変わらずよね。
お前の見るところはそこしかないのか! なんて愚かな突っ込みはいらないわよ。わたしの見るところはそこだけよ!
「お嬢様に使える身としては当然です」
これは、結婚しても嫁ぎ先についていきそうね。レクサーヌをそこまで駆り立てるものはなんなのかしらね?
「お部屋は用意してあります。まずはお休みください」
その間に荷物を降ろす必要があるので、素直に与えられた部屋に向かった。
「いい部屋ね」
十畳ほどの部屋だけど、寝るだけなら問題ないわ。館での仕事はないし、やるのは魔力籠めくらいなんだからね。
「ラン。着替えるわ」
ただ、狭いのでメイドは一人だけついてもらい、荷物は必要最低限のものを入れてもらったわ。
「コノメノウ様は?」
別の馬車に乗っていたからわからないのよね。降りてくる気配もなかったし。あ、尋ねているのはドアの外にいるカーラよ。
「マニエラによれば森に入っていったそうです」
マーキングかしら? 森の獣たちとは仲良くやってもらいたいものね。
いつものワンピースに着替えたら一人用のテーブルにつき、壺に魔力を籠めた。
「なにしているの?」
着替えたメイベルがいつの間にかやってきていた。あら、集中しすぎちゃったわね。二割くらいで止めておこうとしたのに四割も籠めちゃったわ。
「魔力を籠めているのよ。いざってときのためにね」
「変なことしているのね」
「自分の力で生きるためよ。十六の小娘が一人で生きていくにはお金、力、コネが必要だからね、その下準備は必須なのよ。で、どうしたの?」
「夕食だから呼びにきたのよ」
気づいたら明かりが灯され、窓の外は真っ暗だった。
「そう。ありがとう。すぐいくから先にいってて」
壺を収納の指輪に仕舞い、固まった体を解してから食堂に向かった。




