217 流行り
「……まさかわたしまでいくことになるとは……」
別邸に向かう中、何度目かの愚痴がメイベルの口から出た。
まあ、本人に知らされたのは今朝。なにも教えられずに用意を整えられ、馬車に乗せられたんだから愚痴も止まらないわよね。
メイベルに決定権はなく、ルゼット様が言ったら従わなくちゃならない。貴族の娘に人権なんてないも同然。これが普通の伯爵令嬢なのよね。
「わたしは、メイベルといけて嬉しいわ」
一人で過ごすのは前世から慣れているとは言え、やはり誰かとおしゃべりしたり遊んだりしたいもの。友達と余暇を過ごすのもいいでしょうよ。メイベルは、深窓の令嬢とは違うからね。
「そういうのは男性から聞きたいものだわ」
「あら、貴女の婚約者様は言ってくれないの? と言うか、メイベルの婚約者様はどこの誰なの?」
いるとは聞いているけど、どこの誰とは聞いてないのよね。なんか、伯爵子息ではないかとお父様から聞いたような記憶はあるけど。
「まだ候補者が何人かいる段階よ。今のところマルビオ家は安泰だし、派閥も落ち着いているそうだからね。家臣に嫁がせるかって話もあるみたいよ」
「マルビオ家だと子爵男爵が多いものね」
爵位持ちが爵位持ちの配下になるってのも変に感じるけど、誰もが領地を持ち、自立できる者はいない。誰かの下についてお給料をもらうほうが楽と言う人が多いらしいわ。
……貴族も世知辛いものよね……。
「自由なチェレミーが羨ましいわ」
「自由に過ごすには力が必要であり、厄介事が降りかかるもの。なにより覚悟がないと苦しいだけよ」
これ、スローライフか? なんて思う日も多々ある。それでも自由を求めるなら覚悟を持って厄介事に挑んでいくしかないわ。
「貴女って、たまに大人びた顔をするわよね。体はお子様なのに」
「そんなメイベルは体は大人なのに中身はお子様じゃない。まあ、わたしはそんなメイベルも好きだけどね」
一緒にお風呂に入るのが楽しみでならないわ。育ったおっぱいをじっくり確認しないと。
「…わたし、そういう趣味はないからね……」
「わたしもないわよ」
わたしの愛はおっぱいに注がれる。それがすべてなのよ。ユリユリしい展開など求めていないわ。求めるのはパイパイな展開だけよ。
「でも、人としてのメイベルは大好きよ」
メイベルの腕に自分の腕を絡めると、メイベルおっぱいの感触が。ん? あれ? この感触はおっぱいじゃないわね。
「あらあら、メイベルったら盛っているわね」
「べ、別に盛っていないわよ。形をよくするためにしているのよ」
「世間では形のいい胸が好まれているの?」
わたしはありのままのおっぱいを愛せるわ。
「そうね。王都では胸の線がよくないと笑われるのよ」
へー。そんな流行りになっているのね。時代の流行りってのは謎よね~。




