215 わたしをよく知る
なんだかんだと飲み会みたくなってしまった。
まあ、そこは立場ある方々。我を忘れるほど飲み交わすことはなく、世間話みたいなものになっているわ。
レイダー様としたら居心地は悪いでしょうけど、大領地であるマルビオ伯爵と縁が繋げればロッタ家としても得はあるでしょう。貴族の世界は繋がりがあることがステータスみたいなところがあるからね。
これは、マルビオ家としてもルティンラル騎士団と繋がりが持てるのは得だろう。ルティンラル騎士団の団長はライサード公爵家の方。派閥はあるものの、一枚岩の派閥なんてない。いざというときの繋がりは築いておきたいものでしょうよ。
……貴族って面倒よね……。
まあ、生きること自体が面倒なんだけど、貴族はより面倒だわ。凝り固まった社会で生きていかなくちゃならないんだからね。
隠遁したとは言え、わたしも貴族。その面倒な世界で生きていくしかない。捨てるその日までは、ね。
机を借りてラインフォード様宛の手紙を書かしてもらった。
ルゼット様からも手紙は出すでしょうからお礼の内容だけにし、お礼の品として治癒力を高めたミサンガを贈らせてもらうことを書いた。
コノメノウ様の魔力を使ったものだから受け取り拒否はできないでしょう。ただ、人数分はないので錬金壺で創るとしましょうかね。
「チェレミー嬢。ライから聞いたのだが、豆の高騰を抑えたのは本当か?」
「豆の高騰ですか? 麦、ではなくて?」
どういうこと? 豆が暴落したってならわかるけど。
「帝国に流れる豆を止めて国内需要に変えたとか」
はぁ? そんなことになっていたの?
「それはわたしではありませんね。暴落させた、ならわたしでしょうけど」
流通にどうこう言えるほどわたしに力はない。なるようになるしかないと手は出していないもの。
「いや、暴落させるのもどうかと思うぞ」
「そこは帝国との関わりによるものです。詳しい事情が知りたいのならバナリアッテに人を送って調べることをお勧めします」
もはや流通どうこうに興味はない。食糧不足になったり価格高騰になった話は耳にしているけど、それをどうにかするのはその領地の役目。わたしの役目ではない。領民を食べさせるためにがんばってください、だ。
「マルビオ伯爵領では食糧不足になりましたか?」
バナリアッテからはかなり離れた土地だ。豆騒動に巻き込まれてはいないでしょうけど、麦の値は少しくらい上がったでしょうよ。
「いや、昨年から豊作なので、倉の一割が減ったくらいだ。ライからの忠告もあったからな」
「よく信じられましたね」
親友からの警告でも眉唾ものでしょうに。
「うちにはチェレミー嬢をよく知っているメイベルがいるからな」
娘に訊くのもどうかと思うけど、まあ、わたしをよく知っているのはメイベルしかいないわよね。
「お陰でマルビオ家は周辺より優位に立てたよ」
「それはなによりです」
今回のことはそのお礼ってことなのかもね。




