214 内緒にしてあげます
マリーヌに案内されて向かった先は城の外。兵舎だった。
兵舎と言っても立派なもので、さすが大領地と言った造りであり、兵士の教育もよさそうである。服装がビシッとしていたわ。
「いい指揮官をお持ちなようで」
これは、ルゼット様ってより指揮官がいいのね。胸に拳をつける敬礼も決まっていたわ。
……うちの領地、前世の敬礼になっちゃったらどうしようかしら……?
「チェレミー嬢は変なところに目がいくのだな」
「兵士の質は領主の質です。蔑ろにしている領主は失格です」
叔父様が優秀だからうちの兵士も悪くはないんだけど、片田舎の兵士が年齢を重ねて兵士長になったようなもの。どこかからか引っ張ってきたわけじゃない。おのずと力量はそれなりになっちゃうのよね。
……経験の大切さがよくわかるわ……。
「つくづくうちに嫁いで欲しいと思うよ」
「ロンゼ様やリゼッス様の許嫁に失礼ですわよ」
可もなく不可もなくな伯爵家と違って大領地なマルビル家なら産まれる前から決まっていても不思議ではない。メイベルにも婚約者はいるんだからね。
「そうだな。忘れてくれ」
領主ともなれば気軽に愚痴を言えることもできず、存在できる相手も少ない。大変なものよね。
「俗世を離れた身。手紙でよいのならいつでも愚痴をおっしゃってください。世間話なら喜んでお聞きしますから」
面倒事を、なんて言われるかもしれないけど、大領地の領主からの情報は価値あるもの。世間話の返しくらいなんでもないわ。責任は一切問われないんだしね。
三階に上がり、兵士が立つ扉を潜ると、指揮官──兵団長のマッカイ殿、副官らしき男性、領主代理のマルセ様、レイダー様と騎士二人がいた。
ルゼット様が入ると全員が敬礼で迎え、席をルゼット様に譲った。
わたしは右に立つように言われてたので、その通りに従った。
「レイダー殿。チェレミー嬢とコノメノウ様の護衛、感謝する。わたしからもラインフォード殿に手紙を出すので届けて欲しい」
「はっ! 畏まりました!」
「楽にしてよい。マッカイも座れ。このあとの公務も休んで構わぬ。チェレミー嬢からいただいたブランデーなる酒をいただくとしよう」
あれ? わたしを使ってサボろうとしてます? まあ、忙しいのだからこんなこともあってもいいでしょう。
侍従に用意させ、まずは乾杯をした。
「美味いな。カルディムにはこんな酒があったとはな」
「コノメノウ様の魔力をいただいてリンゴから作りました。葡萄から作ったのもありますのであとでお飲みください」
なんのために呼ばれたんやーい! なんてことは顔には出さず、わたしが皆様に注いであげた。野郎に注がれるより女のほうがいいでしょうからね。まあ、仮面の女に注がれ嬉しいかはしらんけど。
……わたしのお付きとしてランはいるけど、扉の前にいるのでわたしがやりました……。
「ランゼア様とミセール様には内緒にしておきますので、ほどほどにお願いしますね」
泥酔したら庇い切れませんので。
「チェレミー嬢に感謝を」
なんてことを言って野郎どもが乾杯した。




