201 捧げ剣
「待たせて申し訳ない。検分は終了した。これに署名をお願いする」
馬車の上にコノメノウ様がいるからか、ラインフォード様の口調も改まっていた。まあ、なんか馬車の上で仁王立ちされてたら口調も変わるわよね。
……どうやらコノメノウ様に傾国の美女は禁句のようだわ……。
「わかりました」
記録官らしき男性が台に羊皮紙を置いており、そこに名前を記入した。
「感謝する」
「お仕事、ご苦労様でした。王国を守る騎士様たちに幸運がありますように」
今はドレスではないので、グリムワールを抜いて捧げ剣の構えをした。
胸の前で掲げる剣は上位者が下の者に武勇を願う構えだ。わたしより上位者はいるでしょうけど、背後にはコノメノウ様がいる。代理として捧げ剣を騎士たちに贈らせてもらいました。
ザッと騎士たちが片膝をついて礼を取る。
さすが王国騎士団。教育がいき届いていること。腐ってなくてなによりだわ。
コノメノウ様からなにかあります? と馬車の上に目をむけたら背中を向けていた。まったく、困ったお方だこと。
「では、ラインフォード様。わたしたちはお暇させていただきます」
ルーアたちに活躍もさせたし、わたしの立ち位置……は、わからないけど、ラブロマンス系の女性よりの世界だってことはわかったわ。
「チェレミー嬢。マルビオ伯爵領まで一隊をおつけしよう」
あーやっぱりそうなるか~。
王国の守護聖獣様がいてハイ、サヨウナラ、とはいかないでしょう。絶対、護衛すると言い出すとは思っていたわ。
それを断ることもできない。コノメノウ様が「いらん」って言えば別だけど。
「好きにしろ」
と言うことでルティンラル騎士団の一隊、レイダー様率いる十五名がついてくることとなりました。
「マルビオ伯爵領まで三日はかかりますよ」
今日はルティンラル騎士団が本陣にしている場所に向かうことになる。そこからとなると三日から四日はかかるはずだ。
「問題ない。そのための遠征だ。すぐに動けるよう常に訓練している」
コノメノウ様にいいところ見せようと思っているのでしょう。本人はどうでもよいと思っているでしょうにね。
仕方がない。わたしから王宮を通してお礼の手紙と粗品を送っておきましょう。
「そうですか。よろしくお願いします」
コノメノウ様の代わりに礼を言っておく。
「ルーア。よろしくお願いするわ」
移動の指揮権はルーアに任せてある。ルーアの決めたことに従うことにしてある。この移動はルーアたちの活躍と経験が主な目的だからね。
「畏まりました。レイダー様。よろしくお願い致します」
「こちらこそよろしくお願いする」
うん。騎士同士のラブロマンスも悪くないわね。一つ、物語を書いてみようかしら? ウブなご令嬢に人気があるかもね。
「チェレミー様。馬車に乗ってください」
「わかったわ」
伯爵令嬢がモルチャカに跨がっていたら伯爵令嬢っぽくないしね。馬車で大人しく守られるとしましょうか。
「コノメノウ様。馬車の中に入ってください。出発しますよ」
「わたしはレオでいく」
そう言うと、馬車から飛び降りてレオに跨がってしまった。
ハァー。仕方がない。しばらく放置するとしましょうか。
ルーアに視線を送り、頷いたのを見て馬車の中に入った。




