198 ただの狂人やん
そう遠い場所にいたわけじゃないようで、三十分くらいで団長らしき渋めの四十歳くらいの男性がやってきた。
「恐らく、ライサード公爵家の方かと」
ラグラナが囁いた。
確か、何代か前に王妃を出した家だったかしら? 公爵家って二十くらいあるから曖昧にしか覚えてないのよね。
……この国、無駄に貴族がいすぎなのよ。半分に減らして欲しいわ……。
ルーアが団長様を連れてわたしのところにやってきた。
相手は格上なので、片膝を地面につけて礼を取った。
「ほぉう。わたしを知っているか」
「いえ。お恥ずかしながら王都を去った身。ライサード公爵家の方としかご存知ありません」
「ウワサとは違うな」
「ウワサ通りと思っていただければ幸いです」
さすが貴族社会。どこの伯爵令嬢とも知らない醜聞が公爵家まで伝わるとは。貴族新聞でも発行されているのかしら?
「随分とおもしろい格好をしているのだな」
「見苦しい顔を見せないためです。女の傷を見て楽しむ酔狂がおありでしたら外しますが」
狐の面はいろいろ付与を施してある。つけていたから盗賊の位置がわかったのよ。
「いや、外さなくてもよい。余計なことを言った。すまない」
ルーアたちの厳しい目に気がついたのでしょう。素直に謝ってきたわ。
「お気になさらないでください。この火傷はわたしの罰。どうなじられようとすべてを受け入れるつもりです」
わたしはおっぱいのためならどんな罵倒も笑顔で受け止められるわ。ハイル、おっぱい!
「随分と清いのだな」
「いえ。自分可愛さから。汚れた女なだけです」
脳内メーカーならおっぱい九割。残り一割がオッパイよ。いや、十割おっぱいやないかーい! って突っ込まれてもわたしはおっぱいが大好きなのよ!
「ふふ。その割には周りから敬意を持たれているな」
「わたしにはすぎた者たちです」
皆、わたしの手から溢れたおっぱいの持ち主だわ。
「まあ、よい。コノ──あの方がいると言うのは本当なのか?」
「──ライサードの小僧か。久しいな」
と、コノメノウ様ご登場。まさか出てくるとはね。面倒だと思って閉じ籠っていると思っていたわ。
コノメノウ様を見るなり跪く団長様。そう言えば、まだ名前を聞いてなかったわ。
「お久しぶりでございます!」
幼女型を知っているってことは、人前では幼女型でいたってことかしら?
「名前はなんと言ったか?」
「ラインフォードでございます」
あら、お洒落な名前ね。若い頃はさぞやモテたことでしょうよ。
「ああ、そんな名前だったな。ラゼルセンと結婚したんだったな」
「はい。コノメノウ様のお陰で巫女姫と結ばれました」
巫女姫? 初めて聞いた名称ね。なにかの役職かしら?
「わたしはなにもしておらん。ラゼルセンが好いた男がいると言うから勝手にしろと言ったまでだ」
「それでもコノメノウ様のお言葉があってこそ。感謝しかありません」
なにやらラブロマンスがあったみたいね。まあ、興味はないけど。
「なんでもよい。さっさと役目を果たせ。こちらにも予定があるのだからな」
「はっ! すぐに済ませます!」
貴族社会は面倒だけど、上の者がいてくれたら縦型社会ってのも悪くないわね。




