175 職人の家系
「おもしろい! 土魔法にそのような使い方があったとは驚きだ」
城造りをしていたのだけれど、いつの間にかゴーレムの話に変わってしまった。
まあ、土魔法を使えるならゴーレムを創れるんじゃね? との好奇心から話はズレにズレてしまいましたとさ。めでたし、ではないわね。
「ゴーレムは再生と破壊の連動だ。どうしても動きは鈍くなり、膨大な魔力を使用する。この骨格フレームなら滑らかに動かせそうだ」
まあ、某ムーバルなフレームからいただいた発想なんですけどね。
「わたしは専門ではなく、思いついただけの机上の発想です。創ってみないとわかりませんね」
「まあ、確かにそうだが、その発想がおもしろい。どうだ、チェレミー嬢。わたしの下で働いてみないか?」
「わたしは隠遁者。貴族社会から外れた者です。表には出れませんよ」
表に出されないよう醜聞として、貴族社会に広まるようにしたんだからね。これで出たらどんな陰口を叩かれるかわかったものじゃないわ。
「わたしのこの火傷は罰です。そして、ここにいるのはわたしの望みです。表に出ることは致しません」
「そ、そうか。失礼した」
「お気になさらず。これはこれで楽しく過ごせてますので。どうもわたしは令嬢としての素養が足りないですからね」
がんばってみたけど、男の魂を持っていては女になれない。肉体に引っ張られることもないわ。口調は女になれたけどね。
「わたしからの要望は以上です」
「うむ。大方はわかった。まずは完成予想の模型を作るとしよう」
「土魔法で、ですか?」
「いや、さすがに土では運ぶのが大変だ。木で作るさ。これでも木工職人にも負けない腕前をしている」
「伯爵としては異質ですのね」
コンポート家ってどんな教育しているのかしら?
「元々我が家系は職人を多く排出している。本来ならおれの兄が家督を継ぐはずだったんだが、現場にいたいと言い張って、次男のおれが継ぐことになったのだ。まあ、おれも現場にいたいので家のことは三男に任せているがな」
それでよく伯爵をやっていられるものよね。それだけ王宮に優遇されているってことかしら?
「とりあえず、チェレミー嬢の職人と話し合ってみてから作るとしよう」
「わかりました。しばらく我が館に滞在致しますか? 滞在するのなら部屋を用意致しますが」
「お願いしよう。あと、配下の者が十人ばかりくる。その者にも部屋を用意してもらえるか? 職人なので寝泊まりできれば充分だ」
「わかりました。すぐに用意致しましょう。」
長屋は増やしているから問題ないはずだわ。ただ、ラルフ様は本館に部屋を用意しましょう。さすがに伯爵を長屋に泊まらせるわけにはいかないしね。
「お嬢様。アルドが参りました」
「通してちょうだい」
そう言うと、畏まったアルドが入ってきた。
「ラルフ様。アルドです。職人の元締めをやらせております。なにかあればアルドにおっしゃってください。アルドは、自分でどうにもならないならすぐわたしに言いなさい」
「は、はい。か、畏まりました」
相手は伯爵。緊張するなと言うほうがおかしいけど、それでも緊張しすぎよ。もっと堂々としなさい。
「そう緊張しなくてよい。チェレミー嬢に対する態度と同じで構わぬ。乱暴な言葉や怒号の中で仕事をしている身だ。職人の荒々しさはいつものことだ。気にもならぬよ」
「だ、そうよ。無駄に畏まることはないわ。なにかあれば遠慮なくラルフ様に言いなさい。わたしが許します」
「ああ。おれも許す。畏まった言葉で時間が割かれるのも面倒だからな」
「まあ、すぐには無理でしょうから、ラルフ様を職人町を見せてあげてちょうだい」
ラルフ様も職人。アルドも職人。己の腕を見せ合って理解していったらいいわ。
「わ、わかりました。ラルフ様、よろしくお願いします」
「うむ。よろしくだ、アルド」
席から立ち上がり、アルドの肩を叩いた。
本当に現場を知った人みたいね。下とのコミュニケーションの取り方を熟知しているわ。




