17 女騎士
「お嬢様。棒ができました」
剣に付与が終わると、アルドが棒を持ってきた。
「ありがとう。じゃあ、それにも強化の付与を施しましょう」
本当は槍にしたほうかいいのでしょうけれど、ないのだから仕方がない。今は身を守るもので我慢しましょう。
三十本以上の棒に強化を施し、職人たちに持たせた。
「ゴーギャンの強さがわからないけど、おもいっきり人を殴っても折れない強度にしたわ。現れたら五人一組になって追い払ってちょうだい。倒すのは冒険者たちに任せましょう」
付与した剣ならゴーギャンを簡単に斬れる。単独で現れるなら四人で連携すればそう難しくなく倒せるでしょうよ。
「無理しないていどによろしくね」
冒険者たちに向いてゴーギャン探索をお願いした。
「はい! お任せください!」
なにやらやる気全開の冒険者たち。付与したのがそんなに嬉しかったのかしら?
「アルド。今日は交代で警戒をしてちょうだい。危険手当てとして報酬に上乗せしておくから」
「はい! ありがとうございます!」
「お礼を言うのはわたしのほうよ。魔物対策に意識が向けなかったわたしが悪いのに、皆に苦労させているんだから。もし、怪我や亡くなった場合はわたしが保証するわ。家族の面倒もみましょう。けど、安全が最優先よ。無理と判断したらさっさと逃げなさい。いいわね?」
「はい。わかりました」
あとはよろしくと、館に入った。わたしがここにいても仕方がないしね。
部屋に戻り、マレアにお茶を頼んだ。
ふー。この世界でスローライフするのは命懸けなのね。これなら都会でスローライフを、のほうがよかったかしら?
いや、面倒事はどこにいたって起こるもの。田舎には田舎の、都会には都会の面倒があるわ。嘆いたって仕方がない。よりよい環境を作っていきましょう、だ。
「お嬢様。王都に戻られては如何ですか?」
お茶を運んできたマレアがそんなことを言ってきた。
「戻ってなにをしろと? あなたの後ろにいる人につけと?」
マレアの思惑はわかる。わたしの付与魔法に価値に気付いて取り込もうとしているんでしょう。こんな火傷を負った顔で王都に戻ったところで引き籠りするしかない。籠の鳥になるくらいなら田舎のスズメとして自由に羽ばたくわ。
「お嬢様ならご活躍できると思います」
「わたしは名誉に興味もないし、影で動くことに喜びを感じたりしないわ」
なにより厄介事を押しつけられるのはゴメンよ。わたしはスローライフがしたいのよ。
「まあ、なにか必要なものがあれば協力するわよ。もちろん、それ相応のものはいただくけどね」
わたしはタダでは動かない女。
逆を言えばお金で動く女じゃん。とか言われたら「はい、そうですががなにか?」と返します。優雅なスローライフをするにはお金がかかるのよ! 貧乏スローライフはゴメンなのよ!
心が~とか、精神が~とかはノーサンキュー。わたしが目指すスローライフはお金がかかるスローライフなのよ。おっぱいなのよ!
「わかりました。そう伝えておきます」
「そうしてちょうだい。あ、ナディアのお菓子を持ってきてもらって。予定外の魔力を使ってお腹空いちゃったわ」
二割ていどの消費だけど、付与するものはまだまだある。しっかり食べて魔力を回復させないとね。
いつもの作業を続け、魔力が尽きる頃にマクライがやってきた。
「お嬢様。ゴーギャンを二匹倒したと報告が入りました」
「二匹もいたの。それは物騒ね。領都にも報告しておいたほうがいいかしら?」
「それはわたしのほうでやっておきました。兵士を送って欲しいとも」
「ありがとう。やっぱり兵士は必要よね。わたしも護衛をつけたほうがいいかしら?」
身を守るものは身につけてはいるけど、戦闘は素人。咄嗟になんて動けないわ。魔物のせいでウォーキングができないのも嫌だしね。
「うちの領地に女性の騎士っていたかしら?」
この国には女性の騎士がいて、ご婦人やご令嬢を守っていたりする。ただ、女性の騎士は少なく、実力者はもっと少ない。可もなく不可もなく、極々普通の伯爵家に回ってくることはないのよね。
「騎士爵の娘が何人かおりますが、お嬢様を守れるだけの力はありません」
「それなりの力があれば問題ないわ。足りない分はわたしの魔法で底上げするからね。重要なのはわたしに忠誠を誓えるかどうかよ」
女騎士。なんかいい響きよね。くっコロはさせないけど、凛々しい姿におっぱいが主張するところは見たいわ。
「それでしたら知り合いの娘が二人おります」
と、マレア。それはどこの知り合いかによるわね。まあ、わたし好みを用意してくれそうだけど。
「では、マレアに任せるわ」
「はい。畏まりました」
「それで、ゴーギャンは運ばれてきたの?」
話をゴーギャンに戻し、状況を尋ねた。
「はい。近くにいたようで、職人たちの手を借りて館に運びました」
「明日も探索を続けたほうがいいかしら?」
その二匹だけとも限らないしね。油断したところにガブリは嫌だわ。
「そうですな。安全を考えれば五日は様子見をしたほうがよろしいかと。ただ、作業は遅れますが」
「遅れるのは構わないわ。職人たちの命を最優先にしてちょうだい」
まだまだ足りないものがあるんだから大切な人材を失ってられないわ。安全を確保してからしっかりと造ってもらわないと、わたしが望むスローライフが送れないわ。
「畏まりました。では、五日は様子見を致します」
「ええ、お願いね」
ちょうどよくナディアがお菓子を持ってきてくれたので美味しくいただいた。




