169 総監督
改めて思う。わたしって、行き当たりばったりな性格すぎるって。
いや、他に考えなくちゃならないことが多すぎて意識が向かなかった、ってのが正しいわね。
「し、城を造るですか?」
今や建設屋の社長的立場となったアルドに都市計画を語り、城を造ることを話した。
「ええ。ここに城を造るわ。いえ、造らないといけなくなったのよ」
「し、しかし、城なんて造ったことなんておれにはありませんよ!」
「そこは安心しなさい。伝手を頼るから」
もちろん、王宮にお願いするのよ。こちらにはコノメノウ様やゴズメ王国との繋がりがある。帝国のことも知られているのだから放置することはできないでしょう。
しかも、お妃様の派閥との関係や利害がある。高貴な方の別邸として使うと言えば人とお金を出してくれるでしょうよ。出さないと言うならそれもよし。受け入れ態勢ができてませんって断る理由になるからね。
「アルドたちには新たな館を建てて欲しいの。そこをわたしの館とするわ」
この館はメイドの寮とするわ。これからさらにメイドは増えるでしょう。なら、ここを渡してわたし好みの館を造ったほうがいいわ。
「……なんだかとんでもないことになってますな……」
「そうね。わたしもこうなるとは想像もできなかったわ。ただ、静かに暮らしたかっただけなのに……」
そこにおっぱいがあれば幸せだったのに。どこで狂ったのかしらね?
「なんて愚痴を言っても仕方がないわね。なってしまったのならよりよい方向に修正すればいいだけ。わたしの暮らしをよりよいものに持っていくまでよ」
「城を建てるにはまだ時間がかかるからそれまでに建材を集めてちょうだい。お金の心配はいらないから。アマデア商会やマーリング商会にも話を通すから協力して動いてちょうだいね」
「わ、わかりました。ただ、誰か指揮する者を立ててください。さすがにおれではあれもこれもは指揮できませんよ」
それもそうね。総監督が必要か。
とは言え、そんな人材をすぐには用意できない。こんなことならダイナーを王都に送るなんて決めなきゃよかったわ。
「とりあえず、この都市計画を広めていてちょうだい。煉瓦造りも始めていて構わないわ」
「わ、わかりました。進めれることは進めていきます」
よろしくと、部屋を出ていくアルドを見送った。
「アマリア。ローラとラグラナを呼んでちょうだい」
「畏まりました」
アマリアが出ていったら引き出しから紙を出して手紙をしたためた。
「お呼びでしょうか?」
すぐに二人がやってきた。
「コンポート伯爵って知ってる?」
「王宮を造ったお家ですね」
さすがローラ。よく知っている。
「わたしは名前しか知らないのだけれど、コンポート伯爵に城を建ててもらいたいの。呼べるかしら?」
「……わたしではなんとも申せません」
つまり、決定権はないか、決定権の範疇を超えているかね。まあ、今回は超えているほうでしょう。事が事だしね。
「では、申せる方に訊いてちょうだい。規模は領都の城と同じくらいを予定しているわ」
そう大きいものは考えていないし、わたしが住むわけではない。高貴な方が泊まる用のものだ。そう豪華にするつもりはないわ。
したためた手紙をローラに渡した。
「迅速に動くことを勧めるわ」
遅れることはそちらの不利益となるだけ。わたしは、却下されても困らない。断る理由ができるんだからね。
「畏まりました」
一礼して部屋を出ていった。




