168 やっちゃるでー!
「チェレミー様。父より直接渡すよう言われた手紙です。あとで確認していただけると助かります」
少し雑談をしたのち、マニエリ嬢がドレスの胸元から手紙を出した。ちょっとクンカクンカしていいかしら?
まあ、皆から見られている状況でクンカクンカする度胸はない。わたしもワンピースの胸元に手紙を仕舞った。あら、下まで落ちちゃったわ。あとでポケットを作ってもらわないとね。
「ブレン様からどう聞いているかわかりませんが、マニエリ嬢にはメイドとして働いてもらいます」
「同行した者もでしょうか?」
「はい。連れてきた者もです。マニエリ嬢がメイド長として指示してください」
さすがにマニエリ嬢一人だけとはいかず、六人の配下を連れてきたそうよ。ちなみにメイド長とは部門の長ね。メイド頭がメイドのトップになります。
「わたしはなにをすればよろしいのでしょうか?」
「帝国流の行儀作法や貴族としての在り方、などですかね。いずれ帝国との関係は強まるでしょう。そのときに備えて帝国を知っておくべきでしょう。まあ、まだ人が揃ってないので、まずはマニエリ嬢が王国の暮らしや行儀作法を覚えて帝国との違いを学んでください。マニエリ嬢が帝国と王国の架け橋になってもらえると幸いです」
帝国との交易が始まれば外交官を送り合うことでしょう。その立場をカルディム家がいただかせてもらいましょう。
「カルディム家は可もなく不可もない伯爵です。大きな役職に就いたこともありません。ここで一つ、大きな役職をいただきたいと思います。帝国大使としてわたしの兄を送りたいと考えています」
お兄様はまた学園に通っており、まだ十七歳だ。交易が始まるとしてもまだ先。それまでにお兄様を教育する時間としましょう。
「父からチェレミー様は出世に興味がないと聞いておりました」
「わたし自身が出世したいなんて考えたことはありません。ただ、わたしも貴族。家を繁栄させる義務があります。お兄様や従弟が出世してくれるなら家族として嬉しいものですよ」
なんてことは建前。カルディム家は可もなく不可もない伯爵でもわたしは一向に構わないわ。これは、マニエリ嬢に欲を見せるため。その背後にいる人を油断させるため。人と言うのは無欲の人間を一番怖がるもの。いや、一番疑うと言ったほうがいいかしらね。
あいつは無欲を装ってとんでもないことを狙っている、とね。なら、欲を見せていたほうが安心してくれるでしょう。つけいる隙があるとね……。
「そのようなことを考えていたのですね。思いつきもしませんでした」
でしょうね。適当に考えたことだし。思いつかれたら警戒対象にするわよ。
「まあ、まずは軽い仕事から初めてここでの暮らしに慣れてください。水が違うと体も不調になると言います。ブレン様から預かった大切な娘さん。なにかあればわたしの責任になりますからね」
雇うと言うより預かると言ったほうがいい。なにかあれば帝国との関係が崩れてしまう。まったく、面倒な立場よね。でも、おっぱいのためならわたしはがんばれる。一緒にお風呂に入れるようやっちゃるでー!




