166 プール
生きるためにはお金がいる。
なにを当たり前なことを。なんておっしゃる方もいらっしゃるでしょう。プロニートでもなければ身をもってわかっていることだものね。
わたしも働かないでおっぱいに囲まれたスローライフを生きたいものよ。誰かの金でメシが食えるのなら最高だわ。
けど、そんな暮らしをできる身分でもなければ世界でもない。自分の我を通そうとするなら身分とお金、そして、力が必要なのよ。
今はこうして隠遁した生活を送れているとは言え、わたしは伯爵令嬢。価値があるとわかれば表舞台に引っ張り出される立場でもある。
カルディム家は王宮の監視下にある。わたしが産まれる前から。
違和感は小さい頃から感じてはいたけど、ここにきて確信できたわ。その理由は未だにわからないけどね。
まあ、いくつか予想はつくけど、あくまでも予想だ。なんの情報もないと真実を見つけることはできないわ。
ただまあ、備えることはできる。オーソドックスにはお金を稼ぐことね。資金さえあれば問題の半分は解決できる。半分が解決できているのなら残り半分に集中できるわ。
今のわたしは、お父様からの生活費。これは、指輪の売上から出ているわ。
次に叔父様からの管理費。この地から上がった税金から出ている。まあ、表向きは、だけどね。
次はマゴットを通しての商品の売上ね。これは、全体の二十パーセントくらいかしらね? 細かいことは省くわ。
最後に、六十パーセントを占めるコノメノウ様の生活費だ。
「……一月毎に送られてきてたのね……」
さすがと言うべきか、それとも当然と言うべきか、毎月金貨三十枚が送られてきてたそうだ。
「さらに祭事がある毎に送られてくる、か」
わたし、コノメノウ様を放置してるんですけど。もらっていいものなの?
「コノメノウ様に申しましたが、構わぬ、もらっておけとおっしゃるばかりでした」
「もらう立場では恐ろしい限りね」
今さらながら守護聖獣様を預かるってとんでもない大事なのね。ってまあ、だからってなにかする気はないけどね! あの方を縛るのは悪手だからね。
「とは言え、返すこともできないしね。コノメノウ様が過ごしやすいように使っていきましょう」
「帳簿はどうしますか?」
マクライは王宮とは関係ない。カルディム家に忠誠を誓っている人物だ。けど、カルディム家に王宮の手が入っていることも理解している。故に帳簿にどう記入するかを訊いてきているのだ。
「ありのままで構わないわ。他に使ったからと言って文句は言ってこないでしょうからね」
マクライがそんなことを訊いたってことは帳簿は見られているってこと。下手に裏帳簿を作るほうが不利益になる。ありのままに記入するほうがいいわ。
「ただ、わたしの生活費を増やしておいて。プールしておくから」
これは隠語。マクライだけに教えてあるわ。
「畏まりました。それと、ダーオン商会から贈り物をいただきました。目録です」
紙の束をもらい、さらっとだけ見る。どうせ夜にヤコダが語るでしょう。
「この資金なら問題ないわね。下男や下女を雇ってちょうだい。今後のために増やしておきたいから」
「畏まりました」
あとは細かいことを話し合って解散した。




