162 ダーオン商会
「お嬢様。マゴットの紹介状を持ったダーオン商会と名乗る者がきました」
魔力籠めをしていたらローラがやってきて、そんなことを言った。
「マゴットの紹介状? エルコット大公国の商人なの?」
「いえ、バナリアッテで商売をしている商会のようです」
「あー。もうきたのね」
もっと先かと思ったのに、かなり急いだみたいね。
「どういうことでしょうか?」
「ブレン様の娘さんがきたのよ」
けど、わたしが考えるよりバナリアッテは帝国の影響を受けているみたいね。まさかマゴットに紹介状を書かせた商会から奪うなんて。
「アマリア。魔力籠めは中止よ。ローラ。ここに通してちょうだい」
「手紙を読んでからでよろしいのでは?」
「構わないわ。内容は大体わかるし、あとでじっくり読むわ」
紹介状と手紙を机の上に置き、椅子に座った。
「畏まりました。ラグラナとランを側に置いてくださいね」
「人選は任せるわ」
わたしに決定権があるようでないからね。
紅茶を飲みながら待っていると、ラグラナとランが初老の男と二十半ばの女性を連れてきた。
「お初にお目にかかります。ダーオン商会のヤコダと申します。こちらはマニエリ嬢です」
嬢ってことは未婚なんだ。貴族なのに。
「初めまして。チェレミー・カルディムよ。遠路遥々ご苦労様。そう急がなくてもよかったのに。あなたも大変だったでしょう」
机の上に置かれた紹介状と手紙に一瞬だけ目が向けられた。それで理解するとか優秀みたいね。
「いえ。ブレン様にはよくしてもらっております。このくらいなんでもございません」
その娘が横にいるんだから下手なことは言えないわね。
「あなたが苦労してないならよかったわ。ただ、紹介状はいただけないわね。次はあなたの名前を使いなさい」
わたしと接触するために仕方がなかったことは認める。けど、その紹介状は別の目的で書いたもの。横取りされたら困るわ。
「……申し訳ございません。次からはわたしの名を使わせていただきます」
「ええ。そうしてちょうだい。あと、商人町に店を構える許可を与えるから、店を出しなさい。これは命令ではないわ。そちらの自由意思に任せるわ」
まあ、ほぼ命令しているのと同じたけど、そちらの事情はあるていど汲んでやるというメッセージよ。
「はい。考えさせていただきます」
「ゆっくりで構わないわ。急なことだからね。まずは旅の疲れを癒しなさい。話は夜にしましょう。ローラ。部屋を用意してちょうだい」
婦人会の視察で、館は完全に宿泊施設となってしまった。ヤコダが何人連れて来たかわからないけど、足りないってことはないでしょうよ。
「あ、大露天風呂を使ってもらいなさい。マニエリ嬢には館のを使ってもらって構わないわ」
今では大露天風呂は館の者の憩いの場となっている。旅の疲れを取らせてあげましょう。
「畏まりました。では、こちらに」
ローラが二人を促し、二人は一礼して部屋を出ていった。
うん。わたしが見抜いた通り、マニエリ嬢は巨乳だったわ。




