143 婦人会到着
婦人会の面々がくるまであと十日。館の準備は着々と進んでいる。
まあ、わたしが直接指揮をしているわけじゃないんだけどね。ただ、ローラからの報告を受け、予定を確認していくのが面倒だわ……。
ローラに学べと言っておいてわたしがなにも知らない、予定外の対処法もわからないでは主として情けなさすぎるでしょう。ちゃんと用意しておかなくちゃならないのよ。
「面倒だわ」
言い出しっぺのわたしが言ってはならないのでしょうけど、考えることが多くてつい愚痴が出てしまったわ。
「そんなに難しいことなの?」
館にきてから考えることを放棄したようなミコノト。あなた、よくそれでわたしを害しようと思ったわね。誰か考える者でもいたのかしら?
……生け捕りにした者は洗脳して人格が変わっちゃったのよね……。
「そうね。ご婦人が何日も泊まるなんてことないからね。どうなるかわたしでも見通せないわ」
あるていど計画を立てて、予定を組んで、想定外を考える。わたし、スローライフを為るためにここにきたんだけどな~。忙しくてちっともスローじゃない。おっぱいに溢れてなければ挫折しているところだわ。
午前は魔力籠め。午後は視察(お泊まり会)の計画立て。時間がところてんのように流れていき、ご婦人たちがやってきた。
「馬車五台か。よく用意したこと」
そう言えば、手紙(愚痴)に馬車がなんとかかんとかって書いてあったような記憶があるわ。まあ、あのときも今もサラッと流しておくけどね!
馬車が館の前に停まり、ご婦人たちが降りてきた。
「ようこそお出でくださいました。馬車移動でお疲れでしょう。まずはお部屋でお休みください。ローラ」
ご婦人は総勢二十人。増えてんじゃん! と思ったけど顔には出さない。二十五人までは許容内。部屋も身分に応じて部屋割りさせてもらったわ。婦人会、貴族がいないだけマシね。
「ごめんなさいね。参加したいという方が多くて削れなかったのよ」
「大丈夫ですよ。増えること前提で部屋を用意しましたから。叔母様もまずは休んでください。それまでにお風呂を用意しておきますので」
一応、大まかな予定は事前に教えてあるし、お風呂のことは周知してもらってある。メイドからも連絡するよう伝えてあるわ。
「そうさせてもらうわ。もうクタクタよ」
でしょうね。出発するまでは叔母様のお仕事。二十五人ものご婦人を連れてくるんだから大変でしかない。昨日も寝れてないでしょうよ。
「ラグラナ。お二方の世話をお願いね」
十日以上、八割の魔力をいただいたので寝込んでいるのよ。さすがの守護聖獣様も平和が長いと衰えるものなのね。
「畏まりました。ただ、これ以上はさすがに……」
「わかっているわ。ご婦人方が帰るまでゆっくり休んでもらうわ」
「……まさか、そのためにお二方の魔力を……?」
「廊下でばったりではご婦人方もびっくりでしょうからね。会わないようにしただけよ」
お二方の限界を知りたかったってのがメインだけどね。
「さあ。ご婦人方を完璧にもてなすわよ」
わたしたちの戦いはこれからよ。
なんて打ち切りエンドみたいなこと言ってみたけど、婦人会の視察旅行は始まったばかり。気合いを入れてがんばりましょうかね。
「視察旅行って、なにを視察するの?」
核心を突いてくるミコノト。それは、訊いちゃいけないアンタッチャブルよ。
「まあ、今回は婦人会の掌握よ」
他の領はわからないけど、カルディム領では婦人会の発言力は強い。叔母様でも気を使うほどだ。
「ご婦人方が叔母様についたほうが得と思わせる。それが目的よ」
大小あれど人を掌握するには「わたしについたほうが得よ」と思わせることだ。
「恐怖や権力で従わせるのは一番やっちゃダメなことよ。恨みは屋台骨を腐らせる。それならまだ利で動かしたほうが健全だわ」
カリスマで従わせるなんてよほどの人物じゃないと無理だし、よほどの環境下でないと害悪でしかないわ。
叔母様は賢いけど、そこまでカリスマ性はない。故に利で従わせるのよ。
「人という生き物は利で動かしたほうがよく動いてくれる生き物なのよ」
愛や情で従わせると歪むものだし、冷静な判断ができなくなる。やがてどちらも腐ってくるものよ。
「愛は損得に関係ない家族や身近な者に向けたらいいのよ」
背はミコノトのほうが高いけど、尻尾は届くところにある。尻尾を撫でて愛情を示した。ミコノト、尻尾を触られるのが好きみたいなのよ。
「お嬢様。レイア様がお呼びです」
着いたばかりなんだから休めばいいのに、心配でゆっくり休んでいられないみたいね。
「わかったわ。紅茶をお願い」
少しだけブランデーを入れてあげましょう。お風呂まで時間があるしね。
叔母様用に用意した部屋に向かうと、長椅子に横になっていた。本当に疲れているようね。
「ごめんなさいね。今は起き上がれる気力がないのよ」
「わかっていますよ」
ブランデー入りの紅茶ではなく、ブランデーを温めたものを飲ませた。
「……なんだか気が落ち着いたわ……」
「わたしの付与魔法で気力上昇をブランデーに施しました」
「あなたの付与魔法は、物にしか施せなかったのでは?」
「そう言うことにしてあるので内緒にしてくださいね」
悪戯っぽくウインクしてみせた。
「……まったく、誰に似たのかしらね……」
前世では祖母に性格が似ていると言われてましたね。
「ただ、わたしが異常なだけですよ」
「確かにそうだけど、自分を卑下するのは止めなさい。あなたはわたしの可愛い姪なんだから」
長椅子から起き上がり、強くわたしを抱き締めた。
これだからカルディムの名を捨てるに捨てられないのよね。ほんと、愛情は鎖だわ。冷静な判断をできなくさせるだけじゃなく心まで縛ってしまうのだからね……。




