138 ボケーっと生きてんじゃないよ
花見三日目はほとんどが職人であり、ノリはもう飲み会だ。日頃のうっぷんを晴らすかのように飲んで食って騒いでいた。
主催者として参加しているけど、このノリにはついていけないわね。
なんてことを顔には出さず、花見を楽しんでいるように微笑みを続けた。
「お嬢様。しっかりと血抜きしたウサギの肉です」
今日の当番ではないけど、昨日に続いて屋台で料理をしていて、冒険者が捕まえたウサギを料理しててくれた。
持ってきてくれたのは串焼き。わたしの口に合わせて小さくしてくれていた。
「臭みが全然ないわ。とっても美味しいわ」
鳥とはちょっと違うけど、タレが染み込んでいてすっごく美味しい。これは婦人会に出しても喜ばれる味でしょうよ。
「見た目よく盛るのも考えてちょうだい。これは最高だわ」
「わかりました。考えておきます」
「無理を言ってばかりでごめんなさいね。あなたの料理が美味しくてつい我が儘になってしまうのよね」
「どんどん我が儘を言ってください。わたしはもっと料理を極めたいので」
「ふふ。頼もしいこと。でも、思い詰めたりしないようにね。何事も余裕や遊び心がないと成長しないからね」
人生の最大の敵は固定観念。これだと決めつけたら新しい事実を受け入れることができなくなる。常に疑い続け、新しいものを取り入れ、取捨選択していくこと、って誰かが言っていたわ。
「お嬢様は賢者ですね」
「わたしは愚者よ。ただ、学ぶことを続ける愚者だけどね」
賢者になるのはおっぱいを堪能したあとで充分だわ。
「ふふ。おれもお嬢様を見習って学ぶ愚者でありたいと思います」
「まあ、考えて生きることが幸せに繋がるもの。なにも考えない愚者にならなければ未来は明るいわ」
幸せは与えられるものじゃない。自ら築いていくものだ。転生(転性?)その言葉の重さを知ったわ。自分の幸せは自分で築いていかないと未来がないってね。
「そうだったわね。忘れていたわ」
生意気なこと言って、悟ったようなこと言って、せっかくのチャンスを潰すところだったわ。
ランを連れて職人たちの中に入る。
「楽しんでいるかしら?」
「はい! 酒が飲めて、美味いものが食えて、こうして騒げますからな!」
「ふふ。それは花見を開催した甲斐があるわ。明日のことなんて忘れてたくさん楽しんでね。職人たちが満足して働いてくれることが大切だからね」
そう言って職人たちのコップにワインを注いでいった。
お嬢様のすることじゃないけど、下々と触れるお嬢様のほうが好かれるもの。わたしのスローライフが守られるのなら苦ではないし、陰口だって気にもしない。
人気と好意はわたしの力となるんだからね。
職人たちにワインを注ぎ、笑顔を振り撒いた。




