135 旅芸人一座
花見二日目。今日は暑いくらいの気温だった。
十時くらいから午後の三時まで開催だけど、ウワサが回ったのか、もうきていて花見を開始していた。
料理は各家庭で作ってきたもので、お酒は商人町で買ったそうよ。
「仕事はいいのかしら?」
今さらでごめんなさい。この時代、花見なんてやってられるほど豊かじゃないよね?
「チェレミー様のお陰で仕事に余裕がでましたから大丈夫ですよ」
今日休みのタグナーがそんなことを口にした。わたし、なにかしたっけ?
「村人に力の腕輪を貸し与えていると聞きましたが」
「あ、そう言えば、貸したわね」
すっかり忘れていたけど、村までの道を整備してと、五十キロのものを持てる力を付与した腕輪(リリヤンで編んだヤツね)を貸したんだったわ。
「それを河川工事にも使って畑に水を流したそうです」
「へー。そんなことになっていたのね~」
貸し出しはマクライに任せていたし、水路をどうこうするかは村長や叔父様の管轄。わたしのほうに報告はこないのよね。
「どうなっているか今度調べておいて」
わたしも一応把握だけはしておきましょう。
「畏まりました」
「あら。タグナーはお酒を飲まないの?」
「はい。どうも酒は体に合わなくて。せっかくの席で申し訳ありません」
「いいのよ。飲めないものは仕方がないもの。なら、これでも飲んでなさい」
アイテムボックスから炭酸のリンゴジュースを出してあげた。
「……美味しいです……」
炭酸をよくいっき飲みできたこと。ゲップ、出ないのかしら?
「気に入ったなら食堂に出すよう伝えておくわ。まだあるからたくさん飲みなさい」
瓶詰めにした炭酸リンゴジュースを十本くらい出した。
「他にお酒が飲めない者は無理に飲む必要はないからね。リンゴジュースでも紅茶でも好きなのを飲みなさい」
わたしはお酒を強制したりはしないお嬢様。好きなものを好きなだけ飲みなさい。
「わたしは炭酸のワインが飲みたいです!」
「わたしも!」
スパークリングワインが気に入ったメイドが手を挙げた。服飾メイドは、大人が多いからお酒のほうがいいみたいね。
「いいわよ。でも、ちゃんと帰れるていどにしておきなさいね」
倒れたら荷馬車に積んで帰るからね。
「わかりました~!」
もうすでに酔いが回っているようでテンションが弾けちゃっているわね。
「お嬢様。楽士がきておりますが、奏でさせてよろしいでしょうか?」
「楽士? そんなものがいるの?」
吟遊詩人とかじゃなくて?
「はい。旅芸人一座ですね。村の者が呼んだみたいです」
呼んだらすぐくるものなの、旅芸人一座って?
「まあ、いいわ。好きにさせなさい。あとでお礼としていくらか包んで渡しておいてちょうだい」
旅芸人一座も商売でしょうし、わたしが出しておきましょう。どんなものか見ておきたいしね。
「畏まりました」
あとはタグナーにお任せ。細々動かなくていいからお嬢様って楽よね。まあ、他にいろいろ忙しいけど!
タグナーが旅芸人一座に向かい、なにか話したあと音楽が奏でられた。
やっぱり音楽があると盛り上がるわね。




