130 梅は咲いたか
「……知っているおっぱいだ……」
うん。昨日、モノクルに暗視の付与を施してガン見してたからね。危うく口がピンクに吸いつくところだったわ。グッジョブ。わたしの理性!
でも、キャラメルに背後を押さえられている状態では顔を前に出さないと抜け出せない。これは不可抗力なのよ。しょうがないな~。
と、顔を前に出そうとしたらミコノトが起床。するりとベッドから出ていってしまい、シーツを巻いて部屋の端にいってしまった。
なに? と思ったらラグラナが入ってきた。
……恐れている……?
ラグラナはいつもと変わらない感じだけど、目はミコノトに向いている。警戒しているのかしら?
まあ、昨日の敵を無条件で信じろと言うのが無茶よね。
「おはようございます、お嬢様」
「おはよう。ミコノトの服を作りたいからライラナに伝えてちょうだい」
「畏まりました」
「ミコノト。それまで獣化しててちょうだい」
さすがに裸のまま、とはいかないからね。
獣化は簡単になれるようですぐにモコモコ狐になった。おっぱいとモコモコって最強生物よね。
ラグラナに着替えさせてもらい洗面を済ませる。
「きゅー」
「あなたはまだ甘えん坊なの? じゃあ、ウォーキングにいく?」
甘えん坊で気まぐれなキャラメル。毎回ウォーキングについてくることはないのよね。
「きゅー!」
「くーん!」
「ハイハイ。ミコノトもね」
コップ一杯のお湯を飲み、軽く柔軟体操をしたら甘酒を一杯。すぐ動くとお腹を崩すので十分くらい外を眺める。
「じゃあ、ウォーキングにいきましょうか」
そう言うと部屋の扉が開いてマリアナとカエラが入ってきた。
よろしくと伝えたら部屋を出る。ランも現れ館の外に。もう完全に春の朝だった。
桜でも咲いていたら情緒もあるんでしょうけど、この世界を創った者は桜を創ってくれなかったようだ。梅は咲いているんだけどね。
「あ、梅酒を作れたわね」
梅酒とかあまり飲まなかったから全然意識になかったわ。梅を集めて梅酒を作ろうかしら? 女性に好まれるはずだわ。
「確か、村にいく途中に梅の木があったわね?」
梅ね~ってくらいにしか意識してなかったからどこだったかは記憶にないけどさ。
「く~ん」
「あ、ごめんなさい。ちょっと思い耽っていただけよ。さあ、いきましょうか」
春の朝の匂いを肺一杯に吸い込んでウォーキングに出た。
村のほうに向かって歩き出したら、梅の木は意外と近くにあった。わたし、見ているようで完全に見落としているわよね……。
「どんな実が生っていたかしら?」
「甘梅です」
と答えたのはカエラだった。そういうのに興味ある性格してたのね。もっとオラオラ系かと思っていたわ。
「甘梅? 甘いの?」
「はい。よく王都で梅を絞ったものを飲んでいました。ただ、地域によって酸っぱいものもあるそうですよ」
「わたしは飲んだことなかったわ」
「庶民が飲むものですからね。お嬢様の口には入りませんよ」
そう言われると飲みたくなるわね。アマデア商会に取り寄せてもらいましょうっと。
「いつ頃実が生るのかしら?」
「花が散って二十日くらいで実となりますね」
まだ蕾だからまだまだ先か。残念。
「まっ、楽しみに待つとしましょうか」
逸っても仕方がないと、ウォーキングを続けた。




