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令嬢ではあるけれど、悪役でもなくヒロインでもない、モブなTSお嬢様のスローライフストーリー(建前)  作者: タカハシあん


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114 敬礼

 商人たちに声をかけ、馬車を十二台用意できた。


「十二台か。まあ、仕方がないわね」


 わたしの中ではここが襲われる想定だったので、大量物資を運ぶ想定はしてなかった。想定内にするには考えが甘かったわね。


「お嬢様。こんなに必要なのですか?」


「これは領民を安心させるためのものよ。なにかあれば別のところから運ばれてくるってね」


 麦の値上がりは領民の耳にも届いているはず。そこに倉庫の麦が襲われたなんて知ったら動揺するわ。時を置けば置くほど不安は募り、疑心暗鬼が満ちる。そうなれば悪さをしたり暴れたりする者が出てくる。それを抑えるには物資があることを示さなければならないわ。


「大丈夫よ。あれの八割は擬態だから」


 中身は同じ重さの灰だ。運ぶ馬には申し訳ないけど、領民を安心させる道具なのだから許してちょうだいな、だ。


「わざと盗ませる気ですか?」


「そうね。盗んでくれたら嬉しいわね」


 灰の他にちょっとした危険物が入っているのは内緒よ。


「……悪辣なお嬢様です……」


「クズには相応の対処よ。悪いけど、ラグラナが指揮してちょうだい。判断は任せるわ」


 わたしは先行して状況を速やかに確認する必要がある。物資を届けることも大事だけど、わたしがいくことも大事だ。領都でのわたしの人気は絶大。すぐに駆けつけたことがわかれば騒ぎも落ち着くでしょうよ。


「畏まりました。ラン。お嬢様が無茶しないようにしなさい」


 わたし、荒事は苦手なんだけど。


「お任せください」


 膝をついて頭を下げるラン。わかってはいたけど、ラグラナ、わたしが想像するより上の立場みたいね。

 

「ルーア。いくわよ」


 レオに跨がり、領都に向けて出発する。


 時刻的に到着できるのは夕方近くになるけど、明るいうちには着けるでしょう。


 先頭はルーアに任せ、領都までいっきに駆け抜け──るのは無理なので、途中でトイレタイム。すっきりしたら駆け抜けた。


 予定通り、明るいうちに到着。手紙から一日は過ぎているので落ち着いているかと思ったけど、不安に感じているのか人の往来が少なかった。


 まあ、わたしに気づいたら騒ぎ出したのですぐに領都に伝わるでしょうよ。


 城に着くと、兵士たちがわたしがきたことを告げ、叔母様が出てきた。


「遅れて申し訳ありません。叔父様は?」


「領都外れにある北倉庫よ。まだそちらで指揮をしているわ」


「では、叔母様の名前で軽症者を城に集めてください。ゴズメ王国から回復薬を都合してもらいました。重傷者はわたしが向かいますので」


 スカートのポケットから収納の指輪を出して叔母様に渡した。


 使い方を教え、試しに一瓶出させてみる。


「五十個は入っています。数に限りがあるので自然と治る者はあとにしてくだいね」


 急遽、壺にコピー付与を施して生産したけど、百個がやっとだったのよ。残り半分はわたしの収納の指輪に入れてあるわ。


「館より物資を運ばせます。領民にはなにも心配ない、騒ぐことはしないよう布令を出してください。領民を安心させてください」


「わかったわ。すぐに出しましょう」


「わたしは北倉庫に向かいます」


 いったことはないけど、領都の地図は頭に入っている。まあ、そう大きくもなく大通りをいけば迷わないけどね。


「チェレミーの護衛を出して。必ず守るように」


 すぐに兵士が十名集まった。


「五名でいいわ。城の守りをしなさい。賊を侵入させてはダメよ」


 城にも倉庫はある。忍び込まれて火でも放たれたら困るからね。


「案内を」


 兵士たちに命令を下し、北倉庫に向かった。


 城から出ると領民たちがちらほらと集まっており、わたしの名前を呼んでいた。


 手を振る状況ではないので敬礼で返した。まあ、この世界で元の世界の軍人がする敬礼が伝わるかわかんないけどね。


 北倉庫に着くと焦げた臭いがしており、倉庫の明かり取りの窓が焼け落ちていた。


「北の倉庫は何棟あったかしら?」


 数までは覚えてないのよ。


「十棟です」


 二列に並んでいるから後ろに五棟あるってことね。


 下は石畳となっており、この騒ぎで踏み荒らされているので襲撃者の跡はわからない。これだけの量となれば馬車が数台ってことはない。一棟で馬車が十台必要だとして、十棟すべてとなれば百台は必要でしょう。


 けど、まさか百台できたなんてことはないでしょう。怪しまれないためには数台。多くても十台が精々でしょう。


 安易的な賊なら持てる分だけにして静かに逃げるでしょう。これは、確実にわたしを攻撃したものでしょうね。


 ……これ、王国に潜伏して指揮している部隊なり組織があったりするわね……。


「チェレミー!」


 おっと。考えるのはあとにしましょうかね。


「叔父様。怪我人は? 死者は?」


「見張りと自警団が怪我をした。死人はいない」


 自警団とかいたんだ。それは知らなんだ。


「不幸中の幸いですね。領都はどうです?」


 領都は壁で囲まれているわけではない。逃げようと思えばどこからでも逃げられる。けど、損害を与えるなら街にも被害を出すはずだわ。


「何ヶ所が火を放たれたが、すぐ見つけて被害は大きくないそうだ」


「それはなによりです。叔父様は城に戻って指揮をしてください。明日には館から運び出した物資が届くでしょう。領民を安心させてください」


「お前はいつも迅速だな」


「物事は初動が大切です。それで大体の最悪は回避できますよ」


「ここはわたしが指揮します」


 カルディム家の者がいれば残った者も安心するでしょうからね。


「わかった。あとを頼む」


「わかりました」


 敬礼をすると、叔父様は一瞬キョトンとしたけど、わたしを真似て敬礼を返した。案外ノリのいい叔父様だこと。

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