110 天能(キフテッド)
叔父様が帰り、沼の草刈りも終わったので、いつもの日常に戻った。
ウォーキングが済ませ、朝食をいただいたら魔力籠めを行う。
「この箱に魔力を放てばいいのか?」
必要なものに付与するための魔力を籠めてもらうために、タルル様に魔力充填箱を渡した。
「はい。いっぱいになればここが緑に光りますので持ってきてください。また新しいのをお渡ししますので」
「わかった。で、どのくらい入るのだ?」
「タルル様の魔力がどれほどかわかりませんので、とりあえず、コノメノウ様十人分の魔力が入るようにしました」
わたしの付与なら百倍でも可能だけど、貯金と魔力は分散しておくに越したことはないわ。
「コノ様十人分か。それは凄まじいな」
「タルル様もコノメノウ様に負けない魔力をお持ちですよね?」
館に仕掛けた自動魔力吸引壺には三級魔力分は溜まっていた。それから考えると、タルル様の魔力はコノメノウ様の四分の三、ってところかしらね?
「わたしは天能持ちで、魔力はそんなに高くないのだ」
「天能持ち?」
「天から与えられた特別な能力だ。お前の付与も天能だろうな。他の魔法は使えんだろう?」
「は、はい。小さな火すら出せません」
「それが天能持ちの特徴だ」
わ、わたし、天能持ちだったようです。マジか!?
「世の中には天能持ちって結構いるものなんですか?」
「そう多くはないし、強弱もあるだろうが、それなりに見ておるな。お前のメイドもそうだ。歳を取るのがゆっくりだ」
ラグラナか! だから六十から三十になれたのね! あれ、天能だったんだ!
ん? ってことは、ラグラナって六十、いや、七十年以上生きているってことにならない? まあ、ラグラナが何歳でもあのおっぱいが立派ならなんでもいいけど。
……いいおっぱいなら何歳のおっぱいだって愛せる。それがわたしよ……。
「天能は貴族庶民に関係なく与えられるものなんですか?」
「ああ。関係はない」
それはおもしろいことを聞いたわ。天能に反応する付与を施したら探せるかしらね?
「ありがとうございます。とてもためになりました」
「構わないさ。では──」
姿を消すタルル様。もしかすると瞬間移動がタルル様の天能かしら?
まあ、なんにせよ、わたしに必要なのは魔力。今日もせっせと魔力を籠めましょうかね。
「──お嬢様。美術商のハルセル様がいらっしゃいました」
ハルセル? 誰だっけ?
「壺を売りにきたそうです」
あー! あの人ね。一年振り過ぎて完全に忘れていたわ。
「通してちょうだい」
魔力籠めを中断し、ハルセルを部屋に通してもらった。
「お久しぶりです。訪れるのが遅くなり申し訳ありません」
「構わないわ。いいものを揃えるのは大変でしょうからね」
「ご理解ありがとうございます。とてもいい品を揃えられました」
一通り挨拶と世間話をしたら揃えたものを部屋に運び込んでもらった。なかなかの数だこと。
箱の蓋を開けてもらい、色鮮やかな壺やティーカップ、珍しいところでは陶器の人形まであった。
「ん?」
陶器人形を触ったら、なにか変な感じがした。
「これは?」
「マローと呼ばれる窯元で作られたものです。陶器で人形とは珍しいので買い上げました。なにかありましたか?」
スカートのポケットからモノクルを出して右目にかけた。
──透視。
で、調べると、陶器人形の中に灰色の石、みたいなのが入っていた。
あと、それでなにする気? とか野暮なことは訊かないように。わかってんでしょ、このこのぉ~!
「これ、高かった?」
「いえ。趣味で作ったものらしいので銀貨一枚でした」
「マロー窯元の作品は他にもあるかしら?」
「はい。四点ほどあります」
見せてもらったら二つに灰色の石が入っていた。なんじゃこれ?
「マロー窯元のものはすべて買うわ。また持ってきてくれたら買わせてもらうわ」
なんだかよくわからないけど、なにか希少なもののような気がする。これは集めるのが吉だわ。
「はい。次回はマロー窯元の作品を多く仕入れてきます」
「お願いするわ。しかし、陶器を嗜好する人って多いのね」
「はい。チェレミー様のようなお若い方はあまり興味は持ちませんが、年配の方は興味を持つ傾向がありますね。中には自分の窯元を持つ方もいらっしゃいます」
「それは素敵ね。わたしもやってみたいわ」
陶芸家までいきたいとは思わないけど、趣味ていどにはやってみたいわ。おっぱいの大きい女性に後ろから抱きつかれながら教わりたいわ。
……陶器のおっぱい、作って壁に飾りたいわ……。
まあ、やったらドン引きされるので妄想の中で止めておくけどね!
「いつか窯元にいってみるとよいかと。どの窯元もチェレミー様を歓迎してくくれるでしょう」
「あら。わたしのこと知られているの?」
「もちろんです。窯元の作品をたくさん買ってくださる方であり、評価してくださる方でもあります。窯元としては長く付き合っていきたいと思うのは当然でございます」
お得意様、だからかしらね?
「そうね。いつか窯元別に展示できる施設を造りたいわね。よいものを百年先、五百年先に残したいわ」
美術館を造るのもいいかもね。王国の宝として残していきたいわ。
「それはようございますな。その際はわたしにも声をおかけください」
「わかったわ。真っ先にあなたに声をかけるわ。それまで健康で長生きしてちょうだい」
「はい。チェレミー様の夢を叶えるまで健康で長生きします」
「ええ。期待しているわ」




