1064 *ハーベルク* 上
初めてチェレミー嬢の名を知ったのはあの醜聞だろう。
長いこと生きていればバカなことをする令嬢のことは耳にする。今回もその類いだろうと軽く流したものだ。
だが、そんな令嬢がいつの間にか先見の魔女として名が上がってきた。
メイドを虐待したのも先を見越し、普通の令嬢としての生き方から抜けるためのものだとのウワサが支配した。
計画だとして、それを十五の娘がやるか? 自らの顔を焼くのか? 行動が逸脱すぎるだろう。自分の娘がそんなことをやったら卒倒する自信しかないぞ。
チェレミー嬢と会ったルティンラル騎士団、いや、ラインフォードに会ったとき、まるで別人に会ったような気がした。
ラインフォードとは年齢が同じで、わたしも公爵の血筋だ。同じ道を辿り、今では騎士団団長として、ルティンラル騎士団と競う存在となった。
長いこと見て来た男だ。その心情もよくわかる。鬱屈していたことも知っていた。
それが久しぶりに再会したとき、希望に満ちた顔になっていた。それは他の団員も同じで、実力も規律もかなり向上していた。
「チェレミー嬢は、このコルディーに必要な方だ。我ら騎士団が忠誠誓うべき方だ」
相手は醜聞を起こした令嬢だぞ。
「表舞台に出るため、一度下がったまでだ。あの方以上にコルディーを思う方はいない。なにより、騎士団の価値をわかってくださっているのは、このコルディーでチェレミー嬢だけだ。そして、戦場を用意してくださるのもチェレミー嬢だけだ」
もう盲信しているかのようなしゃべりだった。
我々騎士団はお飾りのようなものだった。名目だけの存在。訓練しようがしなかろうが意味はなかった。
他の守護騎士団は堪えられずにいたが、わたしはそれが許せなかった。認めることができなかった。騎士は不要ではないと主張してきた。
ラインフォードも同じだ。騎士団を腐らせてなるものかと動いてきた。
騎士団はコルディーを守るために存在する。王国を、民を、明日を守るために。我らが腐ってはダメなのだ。
「コルディーの双翼、前進! 敵を駆逐しろ!」
チェレミー嬢の声が響き渡った。
コルディーの双翼。我らのことか? ふふ。本当にあのご令嬢は、いや、あの方は我らの欲しい言葉をくださる。
「戦場だ! 我ら騎士が誉れを示す場所だ! チェレミー嬢の命令に従え! 望みを叶えろ! さあ示せ! 我らコルディーの騎士であることを! さあ戦え! 我らがチェレミー嬢の剣であると! 前進せよ! 粉砕せよ! 駆逐しろ! 我らミランダルク騎士団が押し通る!」
わたしの声に団員が応えてくれ、我先に走り出した。




