1051 敵がいる 下
「騎士様には、妃候補者たちが編んだミサンガをつけてください。精神攻撃は防いでくれます。予備まあるので二、三個はつけておいてくださいね」
ミサンガはラグラナに届けてもらいましょう。
「さすがにいつかはわかりません。今かもしれませんし、わたしたちが帰る直前かもしれません。あちらに主導権がありますからね」
「誘き出すことは不可能か?」
誘き出す? それは考えなかったわ。確かに、いつ来るかなんて悠長なことをしていたらわたしの時間が消費されるだけだわ。
「……少し、考えてみます……」
そのままウォーキングへと出た。
わたしへ攻撃した理由はなに? いや待って。攻撃と断定するのは早くない? ただの呼びかけってこともあるんじゃない? あの攻撃に悪意というものは感じなかった。
風邪を引いたときに見る夢のようで、なに一つ統一性はなかった。ただ、わたしの欲望を増大させるようなものだった。
付与魔法を突破させようとしたら術者の精神を高揚させるか、不安を与えるかのどちらかでしょう。
意図を持って不安定にさせるなら陰を大きくさせる。でも、今回はわたしの陽のほうだった。
……もしかして、わたしに語りかけようとしていた……?
なんだかそう思えてきてしまった。
いや、待って。結論を出すのは早いわ。罠ってこともあるんだからね。
しかし、語りかけているならそれに乗るのも手だ。このまま時間だけ流れて不利な状況になることもあるんだからね。
「……能動的に対応するか、行動的に動いて戦場を制するか。戦略を組み立てるのが難しいわね……」
段取り八割仕事二割。
それはわかる。でも、予算も時間も与えられず、どこでなにをするかもわからない状況で計画するほうが間違っている。行き当たりばったりとなんら変わらないわ。
なら、エサで釣るか?
こちらにはわたしがいてラーレシム様がいる。そこから戦略を組み立てて行くのがベストかしらね。
「チェレミー嬢。そろそろ戻ったほうがよろしいかと」
騎士様の声に、結構歩いたことに気がついた。二キロは歩いちゃったわ。
「そうですね。戻りましょうか」
さすがに帰りは考えることはせず、風景を楽しむとする。
「いい風だわ」
ジーヌ家の夏は三十度には届いてない。日本のように湿気もない。カラッとした気候だ。人類が栄えるにはかなり適した土地でしょう。
公爵家は大体が元王国だった歴史がある。ジーヌ家も同じで、流民によってできたとかなんとか。そんな適した土地なら以前、誰かが住んでいたはず。その証拠はあちらこちらに立っている。
「なんだかよくある物語っぽいわね」
失われた王国。呪われた都市。インディーさんが喜びそうな展開になりそうね……。




