1044 ノータッチ 上
注意喚起と根回しはこれでよしっと。
「これからなにが起こるのだ?」
「それがわかれば苦労はありませんよ。わたしは未来視を持っているわけではありませんので。予想をいくつか立て、どうなろうとも対処できるよう策を講じる。予想外であれば臨機応変に対応する。それでも無理なら被害を最小限にするために努力する。それだけですわ」
天変地異を前にしたら人の身で抗うことはできない。去るのを待つか鎮まるのを待つかだけよ。
「そう、だな。チェレミー嬢は神でもないのだ、人の身でできることをやるとしよう」
「まあ、天変地異なら守護聖獣様にお任せすればよいのですよ。そのために存在するのですから」
「ふふ。チェレミー嬢は、守護聖獣様に厳しいのだな」
「責務をまっとうしろと言っているだけですわ。守護聖獣という存在意義を忘れたとき、コルディーは瓦解しますからね」
建前がなくなれば本音が崩れる。妖狐たちは考えが甘いのよ。人間を縛るってことにね。王政で縛りたいならもっと体制を考えろって言いたいわ。
「……確かに、チェレミー嬢を力でどうこうはできんな……」
「力でどうこうしようと話が上がりましたか?」
「チェレミー嬢を知らない者はな。だが、知る者は一番の愚行と考えているだろう。ルティンラル騎士団を筆頭に、他の騎士団もチェレミー嬢を支持している。コルディーの武を握っているようなものだ。そう簡単に手は出せない。貶めようにもチェレミー嬢は害にもならない時代に最大の失態を見せている。今さらあれ以上の失態を用意することはできないだろう」
見ている人は本当に見ているんだな~。
失態なんて最初にやっていたもの勝ちなところがある。
名もなき令嬢が起こしたゴシップなど、おもしろおかしくしか受け取られない。ウワサが去っても過去にそんなことあったね~ってくらいだ。
自分の操を守るためならおもしろおかしく笑われたところで気にもならない。失うほうが笑えんわ。
「メイドに燃やされる以上の失態があったら見てみたいものですわ」
わたしの失態を再燃させようともあれ以上の失態となれば色恋か国家反逆級のものでしょう。
「そうだな。考えつくのは横恋慕か? だが、チェレミー嬢と横恋慕しようものなら逆に男のほうの正気を疑われるだろうよ」
やはり公爵様は賢い。その可能性を考えていたとは。
「見た目が幼いですからね」
わたしに色目を使った時点でそいつの人生はジ・エンド。まともな人は実行しないでしょうよ。
「わたしも名誉を守るために常に侍従はつけているからな」
気配を消し、置物のようにしているから気にも止めなかったけど、公爵様はわたしと会うときは必ず侍従をつけている。そりゃ、変なウワサを立てられたら嫌でしょうよ……。




