1042 ピンチはチャンス 上
「さて。話が逸れましたけど、本題に入りましょうか」
「本題?」
きょとんとする公爵様。いや、弟様との関係を改善しに来たわけではありませんよ。ラーレシム様のことを話してましたよね?
「ラーレシム様のことです。正確にはラーレシム様の天能のことですね」
まだ情報は少ないけど、天能持ちに接触があった。なら、天能系が関係あるんじゃないかと見て行くしかないわ。もっと情報が出ればわかって来るはずだけどね。
「クレヌー湖から精神攻撃を受けました」
「はぁ? せ、精神攻撃? どういうことだ?」
そりゃこんなこと言われたら戸惑うしかないでしょうよ。逆に理解されたら説明に困ってしまうわ。
「わたしは、自身に付与を施してあります。この世には精神を攻撃する魔法や魔眼がありますから。それらを防ぐために二重三重と付与を施し、さらに付与を施した指輪をしております。そのお陰で守護聖獣様の力にも対抗できております」
守護聖獣に突破できない壁を突き破って来た。なら、それは魔法とは違うものとなる。
まあ、わたしの天能は、魔法と繋がっているものらしいので、そこそこ対抗できたのだと思うわ。
「クレヌー湖の歴史、ジーヌ家には遺されていないので?」
「我らジーヌ家は元王国だった。数百年前にコルディーへと併合された、くらいの歴史しか遺されてはいないのだ」
ハァー。そうなのよね。なぜかこの世界、いえ、コルディーってあまり歴史を残さないのよね。まるで過去などなかったようにね。そんなことあるわけがないのにさ。意図的に残さないようにしているのかしら?
「今ある記録では何年前まで遡れますか?」
「あ、うーん。曽祖父か? 日記は残っていたはずだ」
曽祖父、ね。どうがんばって二百年がいいところか。国王でもなければ家系図なんて残さないのかしらね? DNA鑑定もできないしね。優先されるは魔力。魔力が強ければ貴族の価値が上がる。なんにでも弊害は出るってことか。
「……歴史を遺す大切さを今知りました……」
日本のように古事記とか遺すなんて希なんだなってよくわかった。普通は残さないのが当たり前なのね……。
まあ、国なんて不都合なことばかりしているほうが多い。都合によい歴史だけ遺して、不都合なことは消し去るでしょうよ。
「……歴史はお金では買えないし、武力で築くこともできない。王が導き、民が支える。それを何百年と繰り返す。まったく、歴史は重いですわね……」
ただなんとなく生きているだけではわからない重み。王と民を繋ぐのがわたしたち貴族がその絆を守る、ってことなんでしょうね。




