1041 *マルセス2* 下
この言葉がやっと出た。
弟に恐れていても家族としての情はある。なにもかも家のために、なんて生き方ができる者はいない。
特にジーヌ家は家族としての繋がりを大切にしてきた一族。一族で揉めることを恥じとしてきたから何百年と公爵家としていられるのだ。
「なんなら半年ほどゴズメ王国に留学、という手もありますわよ。他国を知る者は今のコルディーでは少ない。いえ、皆無と言ってよいでしょう。国王陛下もまだまだお元気。王子が活躍するまでに時間はあります。それまで他国を知るのもよろしいと思いますよ。ゴズメ王国でしたらたくさんの伝手がありますから」
一国と強く深い繋がりがあるなどチェレミー嬢だけだろう。ゴズメ王国の姫を呼ぶほど信頼もされている。
「それはいい! 他国を見れるなど千載一遇でしかない! お願いしたい!」
ロイが笑ったなど何年、いや、何十年振りだろうか? いつも余裕を見せた笑いが子供のような笑いになっていた。
「費用はジーヌ家で出す」
「それが甘やかしなんですよ。必要な資金だけ渡して、自力で稼がせるようにしてください。コルディーの商人もおります。自分が食べるものくらい自分で稼がせてください。ロイスタン様なら問題ございませんでしょう」
さ、さすがチェレミー嬢。厳しいところはとことん厳しい。極限を経験させようとしているのだな。
「ロイスタン・ジーヌ。その名前だけで半年を生き抜くことです。ただし、コルディーの名を汚すこと、不義理なこと、できもしない約束はお辞めください。それはジーヌ家で解決してもらいます。必要ならロイスタン様の首を差し出すこともあると肝に命じていてください」
チェレミー嬢ならやる。いや、殺る。ジーヌ公爵家の者だろうと、自らの手でロイの首を跳ねるだろうよ。
「あ、ああ。自らの力で生き抜こうじゃないか」
「ふふ。その意気です。では、明日の朝に出発しましょうか。荷物は鞄一つだけ。お金はゴズメ王国でも両替は可能です。武器は……いりませんね。凶悪な生き物もおりませんし。まあ、いたら逃げてください。全力で」
なんだか、チェレミー嬢は男に厳しくないか? 気のせいか?
「ロイ。挨拶だけはして行くのだぞ」
兄として金に換金できる宝石は持たしてやろう。チェレミー嬢には甘い、と言われそうだがな。
「兄上。感謝します」
「構わないさ。お前を家に閉じ込めてきたのだからな」
「勉強の時間だっただけです。これでも外のことを調べてきましたからな」
そんなことをしていたのか。まったくわからなかった……。
「では、失礼する。すぐに用意に取りかかりたいのでな」
満面の笑みで部屋を出て行った。これまでにない輝きを放ちながら。




