1038 ロイスタン・ジーヌ 上
自信系天才なんだろうな~。
見た目からの判断だけど、狭い世界で暮らしていたからこそ、大海を知らないって顔でもある。公爵家に生まれた枷ね。
「惜しいですね」
「なにがだい?」
「その才能を活かせてないからですよ。公爵家という檻の中で育った家畜でしかない。外で生まれていたのなら狼となっていたでしょうに」
ロッカル、わたしの婿殿は子犬のような顔をして中身は狼だ。それだけでも目の前の男より価値はあるでしょうよ。
「アハハ。そんなこと言われたのは初めてだよ」
「でしょうね。誰にも言われなかったからこそ、その才能を隠蔽することをしなかった。ぬるま湯に浸かっていたから精神を鍛えることも堪えることも学ばずに生きて来た。貴方はただ才能があるだけ。井の中の蛙大海を知らず、です」
そんなことわざがこの世界にあるかはわからないけど、まさにそのことわざが似合うお方だわ。
「なんとも手厳しいお嬢様だ。まあ、確かにそうだな。わたしにもっと勇気があれば家を飛び出していたんだがな」
「賢いからこそ、飛び出せなかったのでしょう。お金を稼ぐ手立てがないのですから」
損得勘定が働けば貴族でいることを選ぶ。いや、それ以外選択肢はないと言ってもいいでしょう。贅沢を知った体で農作業なんてできないでしょうからね。
「貴方はジーヌ公爵家という世界でしか生きられない。そこの定めから出ることもできない。今の立場が居心地がよいから。ジーヌ家という舞台でしか踊れないのですよ」
「……見てきたように言うのだな……」
「見なくともわかりますよ。甘ったれた坊っちゃんの生きざまなど。取れる選択肢などそんなにないのですからね」
なにかをなしたいという野望もなければこれが知りたいという探求心もない。才能を持て余しているだけ。成長させようという気もない。要は舐めているのよ生きるってことに、ね。
「公爵様も家に閉じ込めるのではなく外に出すべきでした。どうせお坊ちゃんにできるのは女を孕ませるくらい。認知してジーヌ家で引き取ればよいだけですわ」
王国に背くだけの根性もない。それなら外に出して世間を学ばせたほうが何倍もジーヌ家のためとなったでしょうよ。
「まあ、大きい家ともなればそんな乱暴もできないでしょうけど、隠せばよいというものではないといういい事例でしょう。こうして手に負えないでいるのですから。王子のところにでも放り込むとよろしいですよ」
この方なら馴染むのも自分の立場を築くのも早いでしょうよ。大海で泳ぐことができる大魚なのだからね……。




