104 長老様(亀)
エルフさんたちがきてもわたしのウォーキングは中止にはならない。嵐や大雨ならやらないけどね。
今日は沼があるほうにいってみることにする。
「どこにいくのだ?」
館の前で準備運動していたらタルル様が現れた。お早いことで。
「おはようございます。ウォーキングです」
「うぉーきんぐ? なんだそれは?」
「簡単に言えば朝の散歩ですね。体力をつけるために毎朝行っているんですよ」
継続は力也。一年前より筋肉がついたわ。次からは剣の稽古でも始めようかしらね?
「貴族の娘はそんなことをするのか?」
「どうでしょう? わたしは踊りは学んでないので、ウォーキングで体力をつけているだけなので」
貴族の女は十六歳で舞踏会お披露目の儀を行う。そのために毎日踊りの練習をして体力をつけるのが一般的、じゃないかしらね?
「傷を治してやろうか? 聖妖精は人を、生き物を癒す力がある。欠損した腕や目ですら癒すぞ」
なにそのチート? この世界にそんな魔法があったんかい!
「このままで構いません。それをわたしに言って大丈夫なのですか?」
わたしが知る限り、そんな回復魔法を使える存在はいないわ。いたら聖女として認定されちゃうわ。
「別に秘密にはしていないさ。知っている者は知っている事実だからな」
それだけ長く生きて、周知の事実になっているってことか。
「そんな方が国を離れるなんて問題になったのではありませんか?」
「わたしの行動はわたしが決める。誰にも文句は言わせんさ」
ヤダ、カッコイイ! わたしも言ってみたい!
「それは羨ましいことです。わたしもそうなりたいものです」
今のわたしには裏でコソコソしないと自分の行動を貫くことはできない。面と向かって言えるようになりたいわ。
「充分すぎるくらい自分の行動を決めていると思うが?」
「そうだったらコノメノウ様もタルル様もここにはこれていませんよ」
できないからわたしはコノメノウ様やタルル様を受け入れているのよ。
「お前は怖いな」
「わたしは平和を愛する女ですよ」
平和な世界で一日中おっぱいを眺めていたいわ。なんならキャッキャウフフとパフパフしてもらいたいわ。
「では、わたしはウォーキングにいってきますね」
「わたしもいこう」
と、肩に座るタルル様。そこに座られると首が振れないのですが……。
どうせ言っても聞いてくれないのだろうから肩に座らせたまたウォーキングに出発した。
目標にする池は館から一キロくらいのところにある。
これと言って特徴もなく、広くもない、よくある沼だ。ただ、この沼には二メートルくらいの亀が住んでいるのだ。
「ほー。コローゲか。随分と育っているな」
「ゴズメ王国にもいるんですか?」
一応、魔物と分類される亀だけど、性格は大人しくて人を襲うことはないわ。敵がきたら甲羅に籠ってひたすら耐え凌ぐみたいよ。
「ああ。王宮の池にもいるぞ。よく暖かい日はああして岩の上で日向ぼっこしている」
この世界でも亀を飼う人がいるのね。
「長老様。リンゴをどうぞ~」
沼に向かってリンゴを投げ放った。
「長老様?」
「あの亀のあだ名ですよ。おそらく数百年は生きているでしょうからね」
最初は亀吉と呼んでいたのだけれど、サナリが言うには曾祖父の代からいる亀だと言うので長老様に変えたのだ。
沼の真ん中にある岩で日向ぼっこしていた長老様が顔を出し、沼に浮かんだリンゴを風の魔法で引き寄せ、首を伸ばしてリンゴを丸飲みした。
首を動かしてこちらを見ると、ぶあぁ~と鳴いた。この世界の生き物って変な鳴き方するわよね。
「ありがとうだとさ」
と、タルル様。
「……言葉がわかるんですか?」
人外だけに通じる言葉があるの?
「思念だ。あのくらい生きると使えるようになるのさ。あやつもあと百年生きれば聖獣化するかもな」
そんなエボリューションがあるんだ。
「百年ですか。なら、わたしは死んでますね」
聖獣化するところ見たいけど、さすがに百年は生きられないわ。
「お前なら軽く生きられそうだがな」
「わたしは普通の人間ですよ」
「ふふ。普通か。まあ、見た目はそうだな。中身はどうだかわからんが」
「中身も普通の人間です」
見た目と中身が違うのはあなたでしょう。可愛い姿を被ったロリババアめ。
「キュー」
「あ、キャラメル。意地汚いことしないの!」
次のリンゴを投げようとしたらキャラメルがコノハが持つ篭からリンゴを奪おうとしていた。
ルーアに引き離してもらい、長老様にリンゴを与えた。
「じゃあ、長老様。またきますね」
「ぶあぁ~」
「よろしく~、だそうよ」
長老様、意外とフレンドリーな性格みたいね。
「タルル様は、キャラメルの言葉、思念はわかりますか?」
「こやつのは感情しかわからん。嬉しい、悲しい、空腹、とかな。まあ、凶悪なゴーギャンが人に慣れているのがおかしいがな」
「知能向上の付与を施した首輪をさせてますからね。理性が生まれたんだと思いますよ」
そこんとこかなりアバウトですね。
「さあ、帰りますか」
長老様とコミュニケーションできたいい朝だったわ。




