1029 *ラインフォード*
「お姫様たちは呑気ですな」
天幕から聞こえてくるおしゃべりに、若いヤツが呆れていた。
「そう思うか?」
そう尋ねると、目を丸くした。
「は、はい。違うのですか?」
まあ、若いのなら仕方がないのだろう。これが異常なことだということに。
「妃に選ばれるような家の令嬢が一同に集まる。これは別に珍しくはないが、あのように楽しそうにしているなどまずあり得ない。競争相手だぞ、いや、敵同士と言っても過言ではない。家の威信を背負って妃の座を争っているのだからな。敵意剥き出し。足の引っ張り合いをするのが普通だ。前回は心を壊した者もいたくらいだからな」
まだ若く、一騎士でしかなったが、候補者の護衛で出たことがある。あのピリピリした空気は今でも忘れんよ。
「それが、チェレミー嬢が動いたらどうだ? 敵意剥き出しなどなく、和やかにおしゃべりしている。家の威信を背負っているというのにだ。どんな手を使えば家の威信を抑えられたのだ? どんな利を与えたら打ち解け合えるのだ? おれには想像もつかんよ」
どれもこれも一伯爵令嬢が考えられるものではない。王宮も王城も手に負えないと放り出したことだぞ。
「おれたちはチェレミー嬢を見ている。その手腕も知っている。だが、チェレミー嬢が目指しているところがどこなのかはわかってはいない。あの先を見通している目を持つ令嬢が、それだけだとは思えない。十重二十重に知謀を張り巡らしているはずだ」
なにが凄いって、臨機応変に動けるためにあらかじめ細々とした用意をしておいていることだ。
その中には無駄になったこともあるだろう。だが、チェレミー嬢は気にもしていない。どうんな状況になろうと解決できる用意をあちらこちらに仕掛けている。
「だからこそ、チェレミー嬢がジーヌ公爵領に来た意味もあるのではないかなと考えてしまうのだ」
考えすぎと言ってしまえば考えすぎなのかもしれない。だが、ジーヌ公爵家から聖女が生まれてしまった。あのときのチェレミー嬢の顔、どこまでも冷たい目をしていた。先の先まで見通したのではないか?
「チェレミー嬢はたまに冷たい目をすることがある。あれは先を見ているのだろうな……」
チェレミー嬢の目にはなにが写っているのだろうな? 先見の魔女、怪物令嬢、その異名が可愛く思えるほどの実績を叩き出している。
「見た目に騙されるなよ。可愛らしい顔の奥には老獪なバケモノすら手玉に取れる悪魔のような知謀と、女神のような慈愛を持っているご令嬢だ。そして、そんなご令嬢を守るためにいるのが我々だ。努々忘れるなよ」
それは自分を戒める言葉でもある。我々はチェレミー嬢のお荷物になってはならないのだ。
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わたしには見える。おっぱいの形が。ここにいなくとも。壁越しでも。服の上からでも。わたしにはおっぱいが見えるのよ!




