1024 *マルセス* 下
「……なにか、なにかないのですか? チェレミー嬢の弱点となるところは……?」
怪物だろうと絶対ではないはず。なにか弱いところはあるはずだ。
「…………」
「…………」
深い沈黙を生み出してしまった。え? なんだ?
「ど、どうしました? なにかあるので?」
「……胸がないところね……」
………………。
…………。
……。
「はい?」
意味がわからず兄上を見ると、気まずそうに視線を逸らした。
「姉上?」
「チェレミー嬢は口にしないけど、自分の体に劣等感を抱いているわ」
あーまあうん。確かに幼い体をしている。妃候補者と同年代とは思えないほどだ。
「知謀に優れていても女性。自分の体が育っていないことを気にしているわ」
「そう気にすることもない、なんてことを口にするなよ。エヴァに軽蔑されるからな」
妻のエヴァも……なんだ。人並み以下だ。気にしていることも知っている。他と比べるなど家庭崩壊を望んでいるようなものだ。
「チェレミー嬢の天能は失われた手足を復活させることもできる。ウワサではゴズメ王国で新たな体を造ったとも言われているわ」
「婚約破棄をするために自分を焼くような令嬢だ。体を造り変えようとしているのではないか?」
「わたしはそうは思いません。それだったらとっくに実行しているはずです。できるけどしない。それは最後の手として残しているのだと思うわ」
確かに。できるのならやっていても不思議ではないな。
「侍女の話では理想の胸を探しているのではないかと言っておりました」
はぁ? 理想の胸? アホなのか?
「殿方にこそわかるのではありませんか?」
姉上の視線につい目を逸らしてしまった。いや、深い意味はない。意図もない。ただ、本能が働いただけだ。
「最後の手ならば、それは自ら命を絶つとき。新たな姿となり、表舞台から消える、ではないかと思うわ」
「消えたあとは、どうするのだ?」
「問題はそこではありません。なぜ命を絶ったかです。コルディーのために犠牲になったらそれでよいでしょう。ですけど、それがコルディーの裏切りだった場合です。チェレミー嬢はそれをよしとするかしら?」
忠誠心は高い。高いだけに裏切りは許せないものになるはずだ。
「王宮も王城もチェレミー嬢の忠誠心は疑いようがないと見ているわ。だからこそ、チェレミー嬢を軽く見れないのよ。その忠誠心を汚した場合のことを考えると、ね」
あんな知謀の塊のような存在を裏切るなどできるわけもない。そんなの自ら妖狐の尾を踏むようなもの。破滅の未来しかないだろうよ。
「わたしたちにできることは、貴族として利を求め、家を守ること。コルディーの未来をよきものとすること。チェレミー嬢に失望を与えないこと。あとは、それとなく成長を促す食事や健康法を伝えることです」
最後のはともかく、真摯に付き合うしかないということか……。




