102 海の幸
ラーダニア様は基本、野菜を中心に食べており、たまに肉や乳製品を食べるくらい。それが嗜好するのかと思ったけど、エルフ自体が野菜を中心に食べる体質のようだ。
「もしかして、ですけど、エルフ種は肉を消化できないのですか?」
これからも食卓に誘うのだからちゃんと訊いておくべきでしょう。
「はい。ラーダニアから聞いておりませんでしたか?」
「不勉強でラーダニアの嗜好かと思って尋ねませんでした。申し訳ありません」
これは受け入れたわたしが悪い。厄介になっているところに注文したら失礼と思われたのでしょう。そこに考えが至らなかったわたしの責任だわ。
「いえ、これはラーダニアの責任です。謝らないでください」
「そうです。これは、わたしの不注意。チェレミー様のせいではありません」
「いえ。これはわたしの責任です。できれば、食べられるもの食べられないものを教えていただければ幸いです」
これを機会にエルフのことを学んでおきましょう。これから先、ゴズメ王国とは繋がりが太くなっていくはず。大きな失敗をする前に学んでおくべきでしょうよ。
「エルフ種は基本、人間種と変わりはありませんが、肉は大量には食べられません。個人差はありますが、一回の食事で肉一切れくらいですね。卵や乳製品もそう多くは食べられません」
「食べた場合はどうなるので?」
「胃もたれ、腹痛、体調不良を起こします」
「死に至ることは?」
「無理をすれば死に至りますが、その前に気持ち悪くなるので死んだものはおりません」
なるほど。その辺はケーキを食べすぎて気持ち悪くなると同じね。
「この中に食べられないものはありますか?」
歓迎会なので二十種類くらいは出した。この中にはあるかしら?
「いえ、ありません。それどころかどれも素晴らしい料理ばかりです」
「ええ。肉が入っているのに胃もたれも起きません。なんの肉なんですか?」
「鳥の胸肉です。お湯で茹でて脂身を落としてあります」
ラーダニア様も鳥の胸肉はよく食べていた。だから、それを中心に作ってもらったのよ。
「魚はどうです?」
「白身魚はよく食べますね。赤身は茹でたものなら食せます」
白身魚? 赤身?
「ゴズメ王国には海があるんですか?」
地図がないので大まかな方向くらいしかわからないのよね。
「はい。ゴズメ王国は海に面した国で、魚や貝、海草を食べたりします」
ナヌ? 海草だと?
「海草は乾燥させて出汁として使うのですか?」
「え、ええ。よくご存知で……」
東の島国じゃなく、近くにあったよ!
「それ、取り寄せることは可能でしょうか? 手間賃はお支払しますので」
「構いませんが、どうするのですか?」
「もちろん、料理に使います」
昆布だったら味噌汁にも使えるし、鍋にも使える。ワカメならスープにも使えるし、酢ものにもできる。また食卓が豊かになるわ。
「時間を停止させる箱を渡しますので、海の魚も運んでもらえませんでしょうか? わたし、海の魚が食べたかったのです」
王国の王都は内陸部にあるから海の魚って食卓に上がることはなかったのよね。基本、肉料理中心だったのよね。
「王国の方が魚を食べたいとは珍しいですね?」
「そうですね。わたし、美味しいものならなんでも受け入れますよ」
美味しいなら虫でも食べるわよ、わたしは。
「美味しいものを食べられる。それだけで人生は素晴らしいものになりますわ」
スローライフは食にありと見つけたり、よ。
「チェレミー様とはこれからも仲良くしていただきたいので、可能な限りの融通は利かせていただきます」
「こちらもそのお返しはさせていただきますわ。あ、料理人を呼び寄せることは可能ですか。是非ともゴズメ王国の料理を食したいですわ」
海があり出汁の文化があるのなら日本食に近い料理があるはず。是非ともきて欲しいです!
「それは嬉しいです。ゴズメ王国の料理は薄いと言われて他国には不評なので」
「王国の料理は味が濃いですからね。薄さの中にある旨味を見つけるのは大変でしょうね」
まあ、食べたことがないのでなんとも言えないけど、あっさりしたものもそれはそれで楽しみだわ。白身魚なら煮付けがよさげだわ。
「お酒はどうですか? エール、ワイン、清酒、ブランデー、なにか飲めないものはありますか?」
ラーダニア様はワインを好んでいた。他の方はどうなのかしら?
「わたしは清酒が好みです」
「わたしはブランデーですね」
「ブランデーもなかなかの味です」
酒はそれぞれって感じみたいね。まあ、穀物や果物から作ったもの。エルフ的にはどれも飲めて当然か。
「お酒が欲しいときはいつでもおっしゃってくださいね。いくらでも融通しますので」
ラーダニア様はそれほどでもなかったけど、三人はかなり飲むタイプのようだ。飲兵衛は種族に関係なくいるものなのね。
「それはありがたい限りです。エルフ種はどうも酒作りが苦手で、王国から輸入しているくらいです」
へー。そうなんだ。それは不思議なものね。
「それならお酒を売れば儲かりそうですね」
「これだけの味なら大人気になることでしょうよ」
それなら魚を持ってきてくれたらお酒を卸してもいいかもしれないわね。そして、いずれゴズメ王国の商人も店を構えてくれたら嬉しいわ。
 




