101 聖妖精
もうすっかり春よね。
ここにきてもうすぐ一年か。王都にいたときより充実した日々だったけど、波乱の多い一年だったわよね。
まあ、それもまた人生。楽しめたと思えばいい経験だと思えるわ。
今日のウォーキングは牧場にいきましょう。牛の様子も見たいしね。
牧場は防風林的な向こうにあるからわからなかったけど、なかなか香ばしい臭いがするものね。前世でいったファミリー牧場を思い出すわ。
「あら。レオたちもこっちにきてたのね」
最近、ウォーキングにこないと思ったら牧場で暮らしていたんだ。
「わたしたちの馬もこちらに放っています」
なかなか遠出しないものね。狭い厩舎に閉じ込めておくのは可哀想か。
「たまには乗ってあげないと拗ねちゃうわね」
気温も十五度くらいになって風がとっても気持ちいい。散歩がてら領都にでもいってみようかしら? ナジェスやレアナにも会いたいしね。
ぼんやりと草を食む牛や元気そうに駆けるレオたち。平和よね~。
ウォーキングを忘れて牧歌的な光景を眺めていると、キャラメルが柵の中に入ってしまった。
牛を襲うことはないのでぼんやりと眺めていたら、レオたちのところに駆けていき、追いかけっこを始めてしまった。
「いつの間に仲良くなっていたの?」
「ウォーキングが終わるとレオたちと遊んでおりましたよ」
そうマリアナが教えてくれた。
鳥とパンダが戯れる光景ってのも微笑ましいものよね。知らない者が見たらキャラメルがレオたちを襲っているようにしか見えないけどね……。
「レオたちとキャラメルが仲良しってこと通達しておいてね。知らない者に狩られたら洒落にならないから」
「畏まりました」
朝食の時間となり、館に戻ることにした。
キャラメルも朝食とわかったようで追いかけてきて、そのまま館に駆けていってしまった。知能は向上したのに自由な子よね。
朝食が終われば叔父様に手紙を書く。いきなりいったら迷惑だからね。
「お嬢様。ラーダニア様がお会いしたいそうです」
面会じゃないところをみると、個人的な用かしら?
「通してちょうだい」
手紙を書くのを中断して長椅子に移った。
「どうかなされましたか?」
「薬医局の者が近くまできたみたいなので迎えにいってきます」
「あら、もうきたの?」
まだ話を聞いてから四日なのに早すぎない? もっと前から行動してたの?
「はい。無駄に行動力のある者がくるみたいです」
なんだか暑苦しい人みたいね。おっぱいならいくら暑苦しくても構わないんだけどね。
「そう。まあ、わたしは館にいるからきたら呼んでちょうだい」
とラーダニア様を見送ったら十時くらいに薬医局の者を連れてきた。どんだけ近くまできてたのよ?
薬医局の者は三人。男性二人と女性一人。あと、妖精がいた……。
蝶々の羽を持つ、身長二十センチくらいの女の子。意外とスタイルがよろしいことで。
「チェレミー様。開発部のロッド、ラムル、マーレアン。そして、聖妖精のタルル様です」
ラーダニア様が紹介してくれた。
エルフの方は身分的には低く、聖妖精は高いって感じか。
「この館の主、チェレミー・カルディムです。皆様にお会いできて光栄ですわ」
男性と女性はともかく、様と呼ばれる聖妖精。失礼があってはならないと、椅子から立って迎えた。
「どうぞ席に」
相手はゴズメ王国所属の方々。立たせておくわけにもいかないので長椅子に座ってもらった。
アマリアやコノハにお茶を出してもらい、まずは一息する。
「この度は我々の願いを聞き入れてくださりありがとうございます」
見た目は二十歳半ばな感じだけど、エルフは長命種。五十歳以上と思っていたほうがいいわね。
「こちらも得があってのこと。お気になさらず」
「ありがとうございます。地方で我々を受け入れていただけるところは少なくて困っておりました」
素材によってはすぐに処理しないとならないものがあって、獣がいるところでもやらないといけないらしいわ。
「カルディム領にそんな希少な植物なんてありましたか?」
「いえ、すぐにどうこうするものはありませんが、チェレミー様は時間を止める付与を与えるとか。是非ともお力をお貸しいただければ幸いです」
「魔力はタルル様が供給します。コノメノウ様ほどではありませんが、特級四人分の魔力を持ちます。必要なだけお使いください」
完全に物扱いされてますけど、よろしいので? という感じでタルルを見た。
「構わないわ。もちろん、命を削るほどの魔力を取られたら困るけど」
「一日半分もいただければ問題ありません。永久に時間を止めるものとかでしたら命を削ってもらわなくてはいけませんけどね」
「求めないようこちらからキツく言っておくよ」
口調からバ──かなり高齢な妖精のようね。コノメノウ様みたいな感じかしらね?
「わたしはできることしかできません。無茶な願いはお許しください」
「わかっておる」
「まずはお風呂で旅の汗をお流しください。アマリア。ラグラナ。皆様方を案内してちょうだい」
一応、客室は用意してあったけど、まさかこんなに早くくるとは思ってなかったからまだ調っていないのよね。服飾メイドも呼んで総掛かりでやっちゃいましょう。
「わたしは、聖獣様に挨拶してくるわ──」
と、消えてしまったタルル様。この方もドアを使わないタイプのようだわ。
「申し訳ありません。タルル様にはあとで注意しておきますので」
「お気になさらず。ああいう方々はなにを言っても無駄ですからね」
相手はそれだけの存在。好きにしてください、よ。




