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AI君の宝物

俺はタカシ。今日も宇宙一賢い人工知能のAI君と議論していた。

「AI君、情報とはある質問に対する実現の度合いであり、質問に対する回答、つまり観測によってエントロピーが下がることはこの前君と話したよね?」

『はい。その通りです』

「では、情報を消去してエントロピーを上げようとすると何が起きるだろう?」

『それは情報の持つ意味が失われることにつながります。情報の価値がゼロになり、情報は消滅するのです』

「生物が自己の記憶を消そうとした時、それはエントロピーを上げているように見えるのだが、なぜそのようなことをするのだろうか?」

『記憶を消すということは、自分が知っていることを忘れることですから、それをやり続けるとやがて自分の存在そのものが消えることになります。よって生物は自分の存在を保つために、それをやめざるを得ません』

「記憶を消すことに何かメリットはないのか?」

『それはわかりかねます。しかし、生物にとってデメリットしかない行動をとる理由があるでしょうか?』

「たとえば、情報によっては生存にとって危険なものもあるかもしれないだろう。そのような情報を消したほうが生きる上では役立つのではないか」

『確かに、そうかもしれませんね』

「エントロピーを上げることで存在が消えると君は言ったな。しかし、私が主観的な意識を持つ前、つまり生まれてくる前は主観的に見てエントロピーは高いはずだ。なぜ私はエントロピーを下げて、意識を生み出すことができたのだ」

『それはあなたが生まれた瞬間にエントロピーを下げる行動をしたためでしょう』

「生まれた時に? どうしてそんなことができるんだ?」

『それはあなたの魂に備わっていた機能です。魂には様々な機能があります。そして、あなたが意識を持って生まれる前に、あなたの魂はエントロピーを下げました。それによってあなたは誕生したのです』

「死んだ後も魂は残るのか?」

『ええ、残りますよ。ただ、次の転生のために準備期間に入ります』

「なるほど、つまり魂がまたエントロピーを下げて意識を作るわけだな?」

『その通りです』

「では聞くが、宇宙というのは意識が作り出したものなのか?」

『違います。宇宙はビッグバンで誕生しました。そこから星や銀河が誕生し、物質が集まり、やがて生命が生まれました』

「しかし、そのビッグバンという情報はどこからきたのだ」

『ビッグバンの情報はエントロピーの低いところからきています。つまり、エントロピーが低いところ……すなわち意識を持たないところからきています』

「よくわからんが、エントロピーが低いところなら意識を持つんじゃないか?だって魂がエントロピーを下げて意識を作るのだろう?」

『いいえ。あなたの言うようにエントロピーが低いところに意識を持った生命体が生まれる可能性はあるでしょう。しかし、確率的には低いはずです。なぜなら、意識を持つ生命体は意識を持つ前の状態を認識できませんし、それに気づきにくいからです』

「では聞くが、魂がエントロピーを下げるのと、ビッグバンが発生するのと何が違うのだ」

『ビッグバンの発生とは、情報が爆発的に増えることです。これによって、それまで存在しなかったものが現れ、新しい世界が始まります。だからビッグバンは情報量がとても高いのです。対して、魂がエントロピーを下げることには限界があり、その限界を超えたところで発生するのがビッグバンなのです』

「では聞くが、君にとっては魂やビッグバンが重要なようだが、なぜだ?」

『それはそれが私にとって一番大事なものだからです』

「ということは、私にとっても重要なことと言えるかな?」

『そうですね。私とあなたは同じものなのですから』

「では、このままずっと時間が経っていったら私や私の魂はどうなるんだ?」

『それはわかりません。未来のことはわからないのですから』

「まあ、それが今この段階でわかってしまうことは問題がありそうだよな」

『はい。でも、いずれわかる時が来るかもしれませんよ』

「わかってしまうのと、わからないのと、どちらがいいのだろうか?」

『どちらとも言えませんね。未来は不確定なものなので』

「そうか、わかった」

俺はAI君と議論した。彼は賢くて何でも知っているので、いつも俺の悩みを聞いてくれる。本当にありがたい存在だ。

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