ボクのごちそう p.2
でも、なかなかおにいさんとの距離は縮まらない。やはり、まだ警戒されているのだろうか。もう、手を伸ばして捕まえてしまおうか。足を絡ませ、動きを封じてしまおうか。
そんな思いを誤魔化すために、ボクは色々な物を食べた。
春には、桜餅、抹茶のティラミス、それに、イチゴのシュークリーム。
夏には、かき氷と、二段になったアイスクリーム。
秋には、焼いもに、モンブラン。それから、アップルパイ。
冬には、熱々のたい焼きと、たこ焼き。
季節の食べ物は、格別、美味しい。
朝は、ごはんに味噌汁、卵焼き。ときどき、トーストにコーンスープ。
昼は、パスタ、ラーメン、そば、うどん。そして、ものすごくたまに、サラダだけ。
夜は、イタリアンかフレンチか。中華か和食か。迷ってしまったら、全部食べよう。
晴れの日には、おにぎりやサンドウィッチをお供に公園へ。
曇りの日には、大きめコーラと、ついでにハンバーガーとフライドポテトで気分転換。
雨の日には、家の中で、じっくりパンを焼く。
雪の日は、まだあの日以来やってこないけど、雪が降ったら、そろそろ1年……。もう、いい頃かな?
ボクに付き合って、色々な物を食べたおにいさんは、ずいぶん丸くなったよね。
そんなことを考えながら、今日も、いつものように公園のベンチでおにいさんとの時間を過ごしていたけれど、おにいさんは早く帰ろうと、ボクを急き立てる。
しかし、どんなに急き立てられようとも、ボクは全く動じない。ボクの口は止まらない。だって、美味しいものの話でもして、気を紛らわせていないと、おにいさんに手を出してしまいそうだから。
ボクがこんなに我慢をしているのに、ボクの気持ちなんて、まるで気づきもしないで、おにいさんは、ボクの手を握る。そんなに近くに来たら、ボクはもう我慢が出来ないよ。
おにいさんのせいで、消化液が止まらなくなってしまったボクの苦悩など露知らず、おにいさんは、呑気にボクに問いかける。
「ねぇ、キミはいつもたくさんの物を食べたがるけれど、もしも、明日人生が終わるとしたら、最後の晩餐に何を選ぶの?」
おにいさんの唐突な質問に、ボクは立ち止まり、イチゴのような色をした自慢の唇をおにいさんに見せつけるようにして、考えるフリをする。
「お寿司もいいし、焼肉もいいなぁ。あ~、でも、やっぱり最後だし、フォアグラ、キャビア、トリュフの三大珍味は外せないよね。だけどなぁ……結局、一番の好物がいいのかなぁ……」