僕のごちそう p.3
キミの口から食べ物の名前が出てくるたびに、プルンとしたイチゴ色の唇が魅惑的に動く。
キミの香りと唇に、僕がとてつもなく心惹かれていると、不意にイチゴ色の唇が上を向いた。
「やっぱり、おに……!」
僕を見上げてキミが最後の晩餐のメニューを宣言しようとした瞬間、身体中に満ちたあの甘ったるい陶酔感に突き動かされた僕は、自分の唇で、キミの唇を塞いだ。
堪えられなくなった僕は、どのくらいキミの唇を独り占めしていただろうか。
イチゴのような、甘酸っぱい空気に全身が満たされると、僕はゆっくりとキミの唇を開放する。
すると、自由になったキミの口は、またすぐに動き出した。
「なに? 今の?」
「何って、キスに決まってるじゃないか」
「なんで?」
「なんでって……それは……僕の最後の晩餐! 僕の一番のごちそうは、いつだってキミだよ」
照れ臭さから、頬を掻きつつ、キミの真っ直ぐな視線から、少しだけ逃れるように、明後日の方へ自身の視線を逃す。
そんな僕の情けない態度か、それとも、僕がキミに送った最大級の愛の言葉に呆れたのか、もしくは、その両方かは分からないが、キミは軽く顔をしかめてから、そっぽを向いて言った。
「ごちそうかぁ。そうだね。やっぱりごちそうを食べなきゃね。よし、決まったよ。当ててみて」
「さっき、おに……って言いかけてたから、どうせ、お肉って言うんだろ? いや、おにぎりか?」
「ハ・ズ・レ! ボクのごちそうは……」
キミは僕の方に向き直ると、僕の腰に手を回して、背伸びをした。そして、もう一度僕の唇と自分のイチゴ色の唇とを重ねた。
そうしている間に、空からは、あの日と同じように綿菓子のような雪が舞い落ちてきた。
僕らは重ねた唇を離し、互いに空を見上げる。
僕はあの日のキミのように口を開けて、空を見上げていた。キミも、細い腕で僕を強く抱きしめたまま、あの日と同じように大きな口を開けていた。
暗く重たそうな空からは、綿雪がいくつも舞い落ちてきて、僕は、無心で口を閉じたり開いたりを繰り返す。
あの日のキミと同じように……
その時、不意に耳元でキミの声がした。
「やっぱり、雪なんかよりも、ボクはごちそうを頂くことにするよ」
「な……」
確かにそう聞こえたけれど、僕が聞き返すよりも早く、周囲は暗闇に包まれた。
何が起きたのかと呆気に取られていると、何故かキミの満足そうな声が、僕の周りで不気味に反響する。
「ボクのごちそうは、おにいさんだよ。ご馳走様」