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僕のごちそう p.1

 僕がキミを見つけたあの日、キミは公園のベンチに座り、空を見上げていたんだ。


 空を覆う雲から綿菓子のような雪が舞い落ち、風が頬を刺すようなとても寒い日に、キミは、イチゴ色の大きな口を開けて、楽しそうに空を見上げていた。


 僕はとても寒くて、できれば早く家に帰りたかったのだけれど、なせだか、キミの姿から目が離せなかったんだ。


 しばらく、キミを眺めていたら、あることに気がついた。


 上を向いているキミの口が動いていた。何か独り言でも言っているのだろうかと、注意深くキミの口元を見れば、どうやら意味もなく、パクパクと口を閉じたり開いたりしている。


 ますます不思議に思い、キミに視線を向けていると、不意に僕の唇に綿雪が一つ触れた。それを無意識にペロリと舐めとった瞬間、僕はキミの行動を悟ったんだ。キミは、雪を食べているのだと。


 あの日以来、キミは、いつも同じ時間に、同じ公園のベンチに座り、何かを食べていたんだ。キミのことが気になって仕方がなかった僕は、毎日のように公園へと通い、キミを見ていたから知ってるんだよ。


 どんなに通い詰めても、キミは僕のことなど気にも留めず、ただひたすらに口を動かしていたね。


 そんなキミのことがもっと知りたくなった僕は、まずは、キャンディやチョコレートなんて小さなもので、キミの気を惹いた。


 キャンディやチョコレートをいくつもポケットに忍ばせ、甘い香りを纏った僕は、キミから少し距離をとって、キミと同じようにベンチに座る。そこで(ようや)く、キミは僕に目を向けてくれたんだ。


 それからは、コンビニのスイーツやおにぎりへと、質と量を徐々に増やしていき、それに比例するかのように、僕はキミとの距離を縮めていった。


 いつしか、キミの隣は僕の指定席となった。


 僕が食べ物を持っている時、キミは殊更嬉しそうに僕の側へとやってくる。その時にふんわり香るキミの匂いが、僕は好きだ。


 僕がキミの気を引くために纏ったキャンディの甘い香りもいいけれど、僕は、いつもキミが纏っている、花の蜜のような甘くて爽やかな香りがとても好きなのだ。


 キミの香りは、いつだって僕の頭を痺れさせ、僕の全身は甘ったるい陶酔感に包まれる。キミの匂いを感じるたびに、僕はキミのことをもっと知りたくなる。キミにもっと近づきたくなる。


 でも、なかなかキミとの距離は縮まらない。キミの隣に、確かに僕はいるのに、僕たちの心の距離はなかなか縮まらない。そんな気がするんだ。

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