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005

僕は絶望の中にいる。

大罪を抱きながらそれを誰にも裁かれぬのだ。

自責は罰となり得ない。僕は永遠に己の行為を咎め幾度となくこの胸を杭で打ち付けるのだろう。それが分かるからこその絶望だ。


僕はなんと恐ろしいものを手にしてしまったのだろう。

悪魔のごとき力の代償はすでに僕を地獄に引きずりおろしている。逃げ出すための手段は彼女に全てを明かしスマートフォンを木端微塵にぶち壊すことだ。だがそれはできない。もう僕の未来には破滅しか待っていない。


彼女が椅子に座っている姿を見るたびに胸が締め付けられた。どこまでも無邪気に笑う彼女は、僕のクッションを敷いたその臀部で座っているのだ。なんとおぞましいことだろう。もしも彼女がそれを知れば今すぐに命を絶ってしまってもおかしくはなかった。


ああ、それなのに、それなのに僕は今日もこうやって彼女に囚われている。

彼女にもうなにもしたくないと頭では懇願するのに、僕の身体は抵抗の余地なく彼女を求めている。だって彼女はあまりにも甘美だった。一息の間に全身に澄み渡る華の香りに僕の理性は簡単に溶け堕ちた。

僕はもう彼女を放すことなどできやしない。僕は永遠に彼女の瞳に囚われるのだ。


僕は震える声で彼女に命じた。

また罪を重ねようとしている。

誰かあさましい僕を止めてくれ。


僕の願いとは裏腹に、僕の欲望にしたがって、彼女はその身に纏う布をはだけた。

衣のはためきに香る彼女の芳香が脳髄を痺れさす。

しゅるりと、衣擦れの音が地獄に反響する。

蜘蛛の糸で紡がれた背徳の衣が、彼女の手を離れて傍の机に堕ちる。

もう取り返しはつかない。彼女を背かせ、僕はそっと手を伸ばす。

そして僕はそのぬくもりを思いきり抱き締めた。


ああ、ああ!

彼女のぬくもりはなんと心地よいのだろう、なんと甘美な香だろう。

僕は彼女の目が己に向いていないのをいいことに、そのぬくもりへとたまらず顔を埋めた。鼻先に触れるそれは柔らかく心地がいい。鼻腔から迸る衝撃が脳を弾けさす。もしも僕に陰茎があったのならばそれは千切れてしまうほどに怒張していたに違いない。僕は地獄で瞬く間に絶頂を迎えた。ここが全ての極点だった。もう落ちてゆくしかないのだ。


理性の鎖は容易く弾け跳んだ。

僕は思い切り彼女で胸を満たした。彼女の香に舌で触れた。ああ、甘い、甘い、舌が蕩けていく。性的な行為を行うことを『食べる』と表現することへの違和感を僕は以前抱いたことがあった。けれど今はその表現を魂で理解していた。できることならばこの全てを喰らい尽くし体内に取り込みたかった。それこそが愛欲の行き着く先なのだ。僕はそれを確信していた。


永遠にそうしていたかった。

けれど彼女の甘い香りは時を経る毎に薄れていく。それをこの場で終わらせるのはあまりにももったいないことだった。クッションがそうであるように、もっと長く味わっていたい。

僕は抱きしめていた自分の名のついたジャージを大切に袋に込めた。


彼女の衣服の乱れを確認し、胸をなでおろす。

きっと彼女はこのおぞましき情事を知ることはない。


僕だけが知る僕の罪が、また一つ増えた。

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