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016

僕が悪いんじゃない。

だってそうじゃないか。

おまえが悪いんだ。

おまえが僕のパソコンを勝手に見たから、だから僕のせいじゃない。

おまえがそんなことをしなければ僕は、僕はこんなことをしなくて済んだんだ。

それなのに、それなのにおまえがこんな余計なことをするから。

どうして、どうしてこんな、彼女を、こんな、ああ。


愛する妹よ。


おまえはどうして、こんなことに。


混乱した脳が、ほんの少し前なのにおぼろげでさえある記憶を強引に明かす。


そう、そうだ。

帰ったら、いつもあるはずの彼女の出迎えがなくて。

帰りが遅いのだろうかなんてそんなふうに思って、二階に上がった。

そうしたら、ああ、僕の部屋から、明かりが見えて。


彼女は、彼女は、僕の部屋で、かってにPCを使っていた。


いつのまにパスワードを暴いていたのだろうか。

ここ最近など、ほぼ毎週パスワードを変えていたというのに。


それなのに、彼女は僕のPCを使っていた。


あれほどいけないと言い含めていたのに。

それどころかあまつさえ、彼女は、ディスプレイに、僕の欲望を表示していたのだ。


そして彼女は僕を振り向いて、あんな、あんな、ああ、思い出しただけで怖気が走る。


実の妹のあの視線が脳裏から離れない。

冷ややかで、軽蔑と嫌悪に満ちた視線だ。

あそこまで表情の抜け落ちた彼女の姿は見たことがなかった。

だから僕は彼女にアプリを使った。


ただただ恐ろしかった。

人形にしたいまの方がまだあたたかく思えるほどの冷視が。

それほどまでに、彼女の僕に対する全てが冷え切っていたのだ。


どうしてこんなことに。

僕はこんなことしたくなかったのに。

妹にまでこんなことをして、僕はいったいどうすればいい。

彼女にどう顔向けすればいい。


だって、いまから僕は彼女の記憶を僕の都合いいものに改竄するのだ。

以前親友にやったように、彼女の記憶を。

それだけではない。

もう二度とこんなことがないようにと、彼女の自由意思までもを手にかけようとしている。


そうしなければ、僕はたったひとりの妹を失ってしまうから。


そんなことにはとても耐えられない。

ぜったいに、彼女には、知られてはいけない。


そう強く想うがゆえに、彼女を縛ろうとする鎖は自然とその厚みを増していく。


けれど束縛が増せば増すほど、彼女は、もとの妹から遠ざかってしまうのではないか。

それはほんの僅かな違和感でしかないのかもしれない。

それでも、それでも彼女をたしかに変えてしまうかもしれない。

そうなっても、彼女は、そんな自分に、きっと気がつくことはない。


そんな罪を僕だけが知る世界で、これから生き続けることなどできるのか。


これからの一生を、彼女の身体を締めつける鎖と直面しながら過ごさねばならないのだ。

彼女の顔をまっすぐ見ることができるかさえ怪しい。


ああそれでも、それでも僕はお前を失いたくないんだ。


だから僕は、彼女へと告げた。


僕の秘密にまつわる記憶を失い、そして二度と僕の秘密に触れないようにと。

そう、強く、命じた。


全てを忘れた彼女はまたたき、そうしていつもどおりの親愛で僕を見る。

それに安堵するどころか僕は、その奥に軽蔑の色がないかと必死になって探していた。

きっともう二度と、彼女の信頼を素直に受け取ることなどできやしない。


それでも、彼女の姉でいたくて。

抱き着いてくる彼女を、力の限りに。

この小さく柔らかな身体を支配する縛鎖がごとく、抱きしめた。

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