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交錯する人生

出会いは小学生の時だった


何年生の時だったかは覚えていない。

ただ覚えているのは…


『男の中にズカズカ入ってくる活発な女の子!』


と言うのと


『怒ると泣きながら爪を立ててひっかく!と言う恐怖の特技を持つ女の子!』


だった!


あっ!そうそう!

チョット珍しい名前だったのもよく覚えている!

まあ私も同じように珍しい名字なのだが…


その子は名前を男子がからかうと

泣きながらその男を引っ掻く!


それも一度、爪を立てて顔面をつかむと

凄い握力で絶対に離さない!


そのまま放置すると捕まった奴は泣き叫びながら

ダラダラと血を流す流血事件になるので

慌てて止めに入ると

止めに入った奴も引っ掻く…


お蔭で彼女が怒ると

クラスの半数近くの男子が顔から血を流しながら

次の授業を受けることになった…


当然、私も恐怖の爪の被害にあった一名だった…


確か1学期の終業式の日!

突然、その子が引っ越すことを知った!


小学校全体が巨大団地に併設されている

小学校なので引っ越していく奴は多い!


普通なら何も感じないのだが

その子が引っ越すと聞いたとたんに

今まで抱いていた『恐怖』が

『残念』に変わった…


『好き』ではなかったんだろうね…

多分、自分の中では『仲間』に近かったんだろう!


階段を駆け下りていくその子の後ろ姿に

他の男達と共に『じゃあなぁ~!!!』と声を掛けていた!


何年過ぎただろうか?


高校生になった自分は入学式の最中に

校長の話を全く聞かずに入学者名簿を

ボーっと見ていた!


『(・_・)......ン?』


小学校の時の!

あの爪立て女じゃねえか!


珍しい名前だったのですぐに気が付いたが

同姓同名の可能性があるので入学式が終わってから

隣のその子のクラスまで行ってみた!


ヤッパリだ…


『おい!○○○だろ!○○小学校から転校した!』


その子は俺の事なんか覚えていなかったのだろう!

不思議そうに頷いた!


私は自分の名字を名乗った!

そして昔、引っ掻かれたことを話した。


話を聞いていると思いだしてくれたようで

彼女は小学生の時と変わらない

茶目っ気タップリな顔で笑った!


爪を立てながら


当然、引っ掻かれはしなかったが…


その後、二人は急接近!


ってことは無く、普通の友人?

と言うより殆ど話さない知り合い!

みたいな関係で高校三年間は過ぎ去った…


就職して何年過ぎただろうか?


『明日から新しい派遣社員が来るんだ!

悪いけどいつものように仕事内容を説明してあげて!』


いつものように上司に頼まれて、

派遣会社から送られてきた書類を受け取ると…


『(・_・)......ン?』


小学校の時の!

あの爪立て女じゃねえか!


翌朝、玄関に迎えに行くと

彼女は緊張した面持ちで静かに立っていた


初めて来る会社なので当然だが

視線はあちこちを向いている

高校を卒業してから10年近くたっているので

ずいぶん変わったが面影が残っている


『おはようございます!』


今回はさすがに気が付いたようで

私の顔を見ると『あっ!』と言う顔をしている!


会社の受付だから周囲の目もあるので

すました顔で挨拶をし、仕事を説明するために会議室に向かった。


先に彼女を部屋に通し、部屋のドアを閉めながら振り返ると

彼女は爪を立てて立っていた!


もうそこでダメ!


私のビジネス用に作ってある鉄仮面がものの見事に崩れた


『ワハハ!いつ気が付いた?』


彼女は両手の爪で引っ掻くポーズをしながら


『だって!あなたは珍しい名字だもん!』


そうだよな…


仕事の話をしないといけなかったのだが

仕事の話は一切せずに二人は笑いながら

昔話に花が咲いた!


同じ部署で社員と派遣!

指導者と指導される者!

上司と部下?


って感じだったので二人が深い仲になるのに

それほど時間はかからなかった。


会社で仕事の合間に話!

仕事帰りに二人で夕食を食べながら話!

休日はデートをしながら話!

いつでも二人で話していた…


そんな関係が1年近く続いたが

少し疎遠になっていってしまった。


原因はなんだったんだろうか?


部署が変わったことか?

仕事内容が変わったことか?

未だよくわからないが二人は疎遠になっていった…


そんな日々が続いたある日


『今日から新しい契約の子が入るんだって!

しかし、彼女は契約更新しなかったんだ~!

頑張ってやってくれる子だったんだけどな~!』


と彼女が会社をクビになったことを同僚から聞いた!


慌てて彼女の携帯に電話しても

すぐに留守番電話に切替わってしまった…


終業後に慌てて彼女の部屋に行ってみるが

もうすでに引っ越した後で何も残っていなかった…


結婚して何年過ぎただろうか?


たまたま入った近所のファミレスに彼女はいた!


さすがに顔を見た瞬間にお互いにビックリ!


「あっ!!!!!」

って顔をしたが

彼女はウエイトレスの仕事中!

私は家族連れなので

声は出さずに!!!


トイレに行くと彼女もついてきた!

『びっくりした!』

『びっくりしたのはこっちよ!』

トイレの前でお互いに苦笑しながら

とりあえずメルアドの交換をした!


後日、二人で喫茶店で話し込んだ!

何時間も昔話を!飽きることなく!


『しかし、凄い確率だよね!』と言う彼女に

私はこう言った。


『交錯しているんだよ!俺たちの人生は!

どんなに離れていても網目のように交錯しているのさ!』


その後、たまに彼女の働くファミレスに一人で行って

仕事帰りの彼女と話し込んでいた!


一度、話し始めるといつまでもおしゃべりは続いた。


しかし、暗黙の了解でお互いの生活にまでは踏み込まない関係!

だから彼女の家は知らない!

自分も家の場所を教えていない!


そんな関係が1年以上続いた…


ある日、いつものように彼女と話したくて

彼女が働くファミレスに行くとドアに張り紙が貼ってある。


『ご愛顧ありがとうございました。当店は閉店しました。

今後は他のチェーン店のご愛顧をお願いします。』


これで彼女との接点はまた無くなった…


私は下を向いて大きくため息をついてから

入道雲に向かって呟いた!


『交錯しているんだよ!俺たちの人生は!

どんなに離れていても網目のように交錯しているのさ!

だから…また会えるさ!そのうちに!』

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