2019年6月11日 惑星
奇妙な浮遊感で目が覚めた。
不思議の国のアリス症候群の無限落下と同じ感覚。
目を開けてみると、
星空だった。
幻想的な星空。
空を飛んでいる。
落ちているのか、と思ったけど、前に進んでいた。
星々の瞬きが、とてもとても幻想的で、心が和む。
自分は綺麗な物が好きなので、ずっとこの世界に居てもいいかな、とそんなふうに思ってしまった。
今はどこを飛んでいるのか、と疑問に思い下を見た。
地面が無かった。
え?一瞬パニックになる。
ピーターパンの様に魔法の粉で空を飛んでいるわけじゃなさそうだ。
ここはたぶん宇宙空間だ。
銀河系の、星々の中を漂っている。
そういう存在なんだと思う。
人間が想像できるより早く進んでいるのか、
自分の脳が作り出した宇宙だから、規模が小さいのか、
存在自体が超常現象の一つであり、ワープしながら進んでいるのか分からないけど、
いろいろな星系を見て回る事ができた。
恒星一つでぽつんと浮かんでいる。
そんな星を見つけた。
恒星が大きすぎて、他の星々を飲み込んでしまったのかもしれない。
しばらく飛び回ると、
大きな恒星の周りに小さな恒星が公転している星系も見た。
太陽系で言えば、木星が恒星になっていたら、こんなイメージだったかもしれない。
太陽系の様に、地球のような岩石惑星をいくつも持っている星系もあった。
水の惑星、と言える様な表面が全て水で覆われている惑星にも出会った。
太古の地球の様ないろいろな形の生命体が泳いでいた。
階層型惑星といえばいいのか、大きなプレートの様な物が幾重にも重なり、大地を構成している惑星もあった。
プレートをいくつか降ると、巨大な海が存在している。
不思議な惑星だった。
いろいろな星系を見てまわった。
見て回るだけじゃなく、何かをしていた様だ。
その何かは、自分では把握していなかった。
ただ、恒星や惑星をゆっくり見ている時に、意識の外で何かが動いていた、と認識している。
何かは分からなかったけど。
広い広い宇宙空間を彷徨いながら、
「何かを探している」と気づいた。
何を探しているのか分からない。
でも、急に焦りを感じ始めた。
早く、早く、急げ、急げ…
焦燥感で視界が狭くなるのを感じる。
また色々な星系に立ち寄った。
原子の地球がそうであった様に、地震や噴火を繰り返すできたばかりの惑星。
ハビタブルゾーンよりも大外にできてしまった、巨大な氷の惑星。
熱帯雨林のジャングルで覆われてしまった、緑色にしか見えない惑星。
生命体が存在できないような、嵐で探査ロボの離着陸が不可能な惑星もあった。
文明が発展している星は見つからない。
何かを探している焦燥感が強くなってきた。
星々の間を彷徨い続けた。
何かの意志に導かれている様に、
ただひたすらに「そこ」に向かっていった。
銀河を一周したのか、いつか立ち寄った階層惑星に辿り着いた。
一枚のプレートが薄いところで十数メートル、深いところで二千メートルほど。
それが球体の惑星の表面に、積み木のように重なって、一つの星を構成している。
多分だけど、ものすごい長い年月をかけて地殻変動やら風化やらを繰り返せば、上層部の階層が破壊されていって、地球の様に表面がヌボーっとした惑星が出来上がるんじゃないのか?
なんて想像ができた。
そんな惑星の、地中深く…
数層降りると海が見える。
海の底に、探している物があるような気がした。
海の底に向かって潜っていく。
今まで光よりも早い速度で飛んでいたはずなのに、惑星に入ると人間と同じ様な速度しか出せなくなる不思議。
夢だからしょうがない。
深く、深く、
大きな惑星だったから、海底になかなか辿り着かない。
海の中も階層状になっているので、もちろん光なんか届かない。
真っ暗で、心細く、あまりの暗さに気が滅入る。
宇宙なら、星々が見えて明るかった。
光より早く飛んでいるのに光なんか目に入るわけない!と思うかもしれないが、夢に物理法則は存在しない。
とにかく潜り続けた。
深海、
この惑星の一番深いところに辿り着いた。
その場所は、じんわりと光を放っていて、明るい。
洞窟の奥に生息する光苔のような…
どこかの光を反射させて、優しく光っている様な、そんなイメージだった。
この惑星には、大きな海があり、重なっているプレートを考えても、とても広い大地があるのに、
生き物は一匹も居なかった。
生命が誕生する前の星なのかもしれない。
明るい場所を探索する。
引き寄せられる波長は感じるけど、どこにあるのかが分からない。
だから、探し回った。
しばらく探していると、
より一層波長が強く感じる場所を見つけた。
大きな、
大きな二枚貝があった。
生き物が居ない星だと思われたが、見つけていなかっただけで本当は存在したのかもしれない。
大きな二枚貝。
その大きさは、人が入れる大きさではないが、
ブラックジャック先生が腕を挟まれた貝くらいの大きさがあった。
その貝がガバっと開き、
大量の空気が出てきた。
容積以上の空気が溢れ、
中には一冊の本が入っていた。
表紙には何も書かれていない、無地の、白い本。
その本を手に取る。
ゆっくりと本を開く。
本から光が溢れる。
一瞬で、目を開けていられないほど眩しくなった。
のちに、強い衝撃。
気がつくと、周りには大量の生物が発生していた。
バクテリアのような、微生物だけど、それが分かる。
見える。
もしかすると、この惑星は、生命が誕生するきっかけを求めていたのかもしれない。
本が収まっていた二枚貝は、いつの間にか消えてなくなっていた。
海流でじわじわ広がっていくバクテリア。
この惑星は、数億年もしたら生き物で豊かになる。
そんな予感がした。
また何かの波長を感じた。
急いで行かないと間に合わなくなる。
そんな感覚に襲われた。
一瞬で、階層惑星から抜け出し、宇宙空間に出る。
波長を感じた方へ急ぐ。
どのくらいの猶予があるのか分からない。
でも、今は急ぐしかない。
星々が視界の隅を通り過ぎる。
立ち寄った星もあった。
まだ見ていない星も見つけた。
もう立ち寄る余裕はない、そう感じた。
しばらく目的の場所を探して、漂い続けた。
そして見つけた。
地球のように文明が発展した惑星を。
この惑星が、助けを求めていた。
星の悲鳴。
それが波長だった。
成長が止まってしまった星が助けを呼ぶ。
そして、今回は
破壊が止まらない惑星の叫び。
文明が発展しすぎて、惑星の住人同士が戦争を始めた。
破壊兵器で星の表面が、星の内部まで傷つき始めた。
作ってはいけない毒素で、自然を破壊し、破壊された土地は数百年不毛な大地へと変わる。
それでも、その星の住人は争いを止めなかった。
だから、星が助けを求めた。
その星の「本」を探しに海底へ。
海も毒にやられて、生き物が住みずらい星へと変化していく。
このままでは星が死んでしまう…
早く助けなければ!
そんな使命感で一心不乱で本を探した。
一番深い海溝で、その本は在った。
真っ黒に染まっていた。
本が開いていて、ゆっくりと、長い時間をかけてページがめくれていく。
このページが進むと、歴史が進む。
そんなイメージを持った。
だから、
この本を閉じれば…
生き物の歴史は全部
なくなる。
星の助けの信号を強く受け取った。
最後の叫びに聞こえた。
星を助けるために、
僕は
本を閉じた。
その瞬間、
世界がシャボン玉のように弾けた。
生き物が存在していた形跡が無くなり、
破壊された空も海も、大地も。
星の血液のマントルも、全てが「元に戻った」。
僕は本を閉じることで大量虐殺してしまった。
落ち込んだ。
本がゆっくりと白くなっていく。
星に聞いた。
また生命を発生させてもいいか?
と。
星は何も答えなかった。
だから、
僕は本を開かずに、その星から出ていった。
自然に本が開かない様に、縛った。
あとは星の意志に任せよう。
星が望めば解ける様にした。
宇宙の旅へ、戻った。
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すごく、すごく長い夢を見た。
生命を発生させるお手伝い?
そんな夢だった。
一人の意思で、その惑星の全ての生き物を強制的になかったことにしてしまう、そういう能力がある存在は…
現実にいたら恐怖だと思う。
何も感じず、急に命が終わる。
そんなことにならない様に、一生懸命生きるべし。
そう思えた夢だった。
めでたしめでたし。