2019年5月24日 白い部屋
真っ白な部屋にいた。
目を開けたら真っ白な部屋の中心で佇んでいた。
四面にドアは無く、正面の壁にだけ窓がある。
窓は開いていて、緩やかに風が入ってくる。
窓に近づく。
窓の外は真っ暗で、地面や遠くを見渡しても何も見えない。
ただ、陸地と空の境目はわかる。
色が違うし、星が見えているから。
星だけじゃない。
見上げたら大きな月が浮かんでいる。
とても、とても幻想的な世界だった。
この世界に、
この部屋と宇宙しか存在していない、そんな感覚になる。
ぼーっと空を眺めていると…
ドサ、っという音で我にかえり、部屋を見渡した。
矢の中心に、工事現場のおっちゃんがつけるような、工具を入れる腰ベルトが落ちてた。
何故に?
理由はわからないが、そこに落ちてきたということだろう。
天井も真っ白なので、どこから落ちてきたのかはわからないけど。
ふっと思い出した。
この夢、あれだ。
この後部屋に幽霊らしき存在が出てきて、倒すヤツだ。
しかもこの部屋、あの小説の部屋か!
昔読んだ事がある角川ホラー文庫の『白い部屋で月の歌を』の部屋だ!
だいぶ記憶から薄れたけど、間違い無いと思う。
雰囲気がそれを物語っている。
不意に歌声が聞こえてきた。
窓の外から。
窓から頭を出して、歌の発生源を探す。
居ない…
何者かの気配を感じ、振り返る。
椅子の上にパイプ。
あれ、これ…
何かの絵画であったな、ゴッホ?
美術は疎いんだよ!
そんなことを考えていると、パイプから煙が立ち上がる。
煙がどんどん広がり、部屋いっぱいまで広がったと思うと、
収縮しはじめた。
口にタバコを10本ほど咥えたお化けが現れた。
変な声が聞こえる。
「除霊をお願いします」
なるほど、やっぱりあの小説のように幽霊を除霊すれば良いわけだな。
と言っても手元には工具しかない。
とりあえず、プラスドラバーを投げつけた。
幽霊に物理攻撃が通用しないのはしゃーない。
そんなことだろうと思ってた。
お化けに対する基礎的な知識がない。
除霊、どうすれば良いのかわからない。
南無阿弥陀仏。
言ってみた。効果なんかない。
当たり前だ。
お経に除霊の意味合いなんてない。
あれはただ生きている人に向けて、人生楽ありゃ苦もあるさ!と言ってるだけの文章だ。
意味は後世の人間が勝手に付け加えたものであり、除霊の効果は一才無い。
そんな無駄な知識があるから、言うだけじゃ幽霊は立ち去らない。
とりあえず、物理でなんとかならないかな…と思いっきりぶん殴ってみる。
当たった。
幽霊が拳で吹っ飛ばされた。
ええー
こんなんでいいの??
ちょっと混乱した。
起き上がる幽霊を今度は足蹴にした。
自分タバコは完全悪だと思ってるので、喫煙者と犯罪者には容赦しません。
それあ幽霊でも。
なので、思いつく限りボコボコにした。
それで動かなくなったところ、窓から捨てた。
ちなみに、実際の小説ではこんな荒々しい除霊は無かったと思う。
一度しか読んで無いし、既に記憶から抜けているから思い出せない。
幽霊が落ちて、多分地面に到達したところで、グシャ、っと嫌な音が聞こえた。
嫌な音と共に、先ほど聞こえてきた歌も聞こえてきた。
しばらく歌と月見で癒される。
「除霊をお願いします」
また同じ声が聞こえてきた。
部屋を振り返ると、
首吊りお化けが居た。
首を吊ってる。
無害そうに見えるが、悪臭を漂わせている。
先程の工具からカッターナイフを出して、首吊りロープを切断した。
どさっと床に落ちる幽霊。
その衝撃で、ビクンビクンと跳ね回りながら、部屋の中を移動している。
その姿はちょっと恐怖だった。
いつ止まるのかわからないけど、
止まるまで触りたく無い。
しばらく眺め続けても動きが収まらないので、触りたく無かったけど、抱えて窓から落とした。
幽霊が落ちて、多分地面に到達したところで、グシャ、っと嫌な音が聞こえた。
嫌な音と共に、先ほど聞こえてきた歌も聞こえてきた。
しばらく歌と月見で癒される。
これは何度繰り返せば良いんだ?
2回幽霊を「除霊」した。
窓から落としただけだが、一応夢は進んでる。
どこに到達するのが良いのか、わからない。
たとえ幽霊でも、殺していることに変わりは無いから、嫌な気分になってくる。
「除霊をお願いします」
3度目の声が聞こえてきた。
雰囲気が変わった。
月が雲に隠れ、星が見えなくなった。
地平線の先の、陸地と空の境目もわからなくなってる。
ゾワっとして後ろを振り返る。
バイオハザード4に出てくるリヘナラドールっぽい気持ち悪いのが部屋の真ん中で突っ立ってる。
小刻みに体を揺らして、
独特の呼吸をしている。
これはやばい、死ぬ夢だったか…
伸縮自在の腕を伸ばして攻撃してくる。
一応、全部かわす。
夢だから身体機能が増強してる。
工具のポーチからマイナスドライバーを取り出し、
怪物の体に突き立てる。
効果は無い。
隙を見て、何度も何度も突き立てる。
全く効果がない。
やっぱりゲームのように弱点が解らないと倒せないのか…
と思ったところで、捕まった。
口を大きく開けて、
顔を食べられた。
一気に視界と嗅覚が失われた。
下顎も舌も全部無くなった。
残ってるのは聴覚だけ。
でも、二口目で頭全部を食べられ絶命した。
ここから視点は見下ろし視点になる。
怪物は、自分だった肉を食べ続けた。
食べられている間、ずっと
「除霊をお願いします」
の声が響いていたのだが、自分は意識する事ができなかったようだ。
一人の人間が怪物に勝てるわけもなく、滅びるのは必須である。
自分が幽体になったので、窓から抜け出してみる。
歌の発生源がわからない。
歌の発生源と、声の発生源がわかれば次に同じ夢を見た時に対処できるかもしれない…
そう思ったのだが…
飛び回って探してると、何故か浮力が無くなり、地面に落ちていく途中で目が覚めた。
で、ベッドから落ちた。
この夢は、何度か見そうな予感がする。
そう思いながら朝の準備を始めましたとさ。
めでたしめでたし。